創刊70年を迎える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
安保・防衛問題の専門紙です

時の焦点<国内>

防御能力の強化を急げ

サイバー攻撃

 中国が執拗(しつよう)にサイバー攻撃を仕掛けている実態が明らかになった。政府は、防護能力の強化を急がねばならない。

 中国軍のハッカーが、防衛機密を扱う日本政府のコンピューターシステムに侵入していたと、米紙ワシントン・ポストが報じた。ハッカーは繰り返しシステムに侵入し、自衛隊の計画や能力、欠点などを探ろうとしていたという。

 防衛省・自衛隊が運用するネットワークは機密性が高いとされてきた。防衛機密へのアクセスを許したことが事実なら、極めて深刻な事態だ。

 不正なアクセスは、2020年秋に米国家安全保障局(NSA)が把握した。当時のポッティンジャー大統領次席補佐官らが来日し、「日本の近代史で最も損害の大きいハッキングだ」と日本側に警告したという。

 報道を受け、浜田防衛相は「対応能力を明らかにすることになるため、詳細は答えられない」としつつ、「秘密情報が漏えいした事実は確認していない」と述べた。

 どこに隙があったのか。指摘されるまで察知できなかったのか。防衛省は経緯を検証し、対策を徹底すべきだ。

 中国は、約3万人のサイバー攻撃部隊を持つとされている。台湾有事の際には、在日米軍などの活動を妨げるため、サイバー攻撃を仕掛けてくるとの分析がある。

 情報技術が高度化するなかで、「第5の戦場」と呼ばれるサイバー空間での戦いは現実味を帯びつつある。政府は危機感を強め、万全の対策を講じてもらいたい。

 懸念されるのは、サイバー攻撃に対する日本政府の脆弱(ぜいじゃく)性が露呈していることだ。

 政府の内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)でも、外部からの不正アクセスでメールアドレスなどが漏えいした可能性があることが判明した。

 サイバー対策の司令塔であるNISCが被害を受けたことは重大だ。同盟国や、日本と関係が深い国々との情報共有に支障が生じないよう、政府は不安の払拭に努めていく責任がある。

 政府は、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の導入に向けた法整備を検討している。政府機関や重要インフラ(社会基盤)への攻撃の恐れがある場合に、相手側のネットワークに侵入し、攻撃を無力化するものだ。

 第三者のシステムへの侵入を禁じた不正アクセス禁止法や、マルウェア作成を禁じる刑法を改正するといった法整備が必要となる。有識者の意見を踏まえ、有効な仕組みを検討してほしい。

 サイバー対策では、専門的な知識を持つ人材の確保が鍵を握る。

 自衛隊は、「サイバー防衛隊」を中心とする専門要員を、現在の約890人から、27年度末までに4000人規模へ拡充する方針だ。

 民間人材を積極的に活用しながら、態勢を整えることが不可欠だ。

藤原志郎(政治評論家)

(2023年8月17日付『朝雲』より)

 

最新ニュースLATEST NEWS