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時の焦点<海外>

建国250年

変わる、そして変わらぬ米国

 1776年7月4日、アメリカは植民地13州がイギリスからの独立を宣言した。日本では徳川幕府が開かれてから173年後のことである。来年は米国建国250年記念祭を迎える。

 アメリカの星条旗は、独立時の13州を示す紅白のストライプと現在の50州の星で構成され、アメリカの歴史そのものを物語っている。独立から85年後には奴隷制をめぐり南北戦争が勃発、南北に分断された歴史を持つ。

 その後の二度の世界大戦で外に向かった覇権国家は、トランプの再登場でグローバリズムに決別し、国際金融資本との関税戦争という新たなる国際秩序の再構築に向かっている。

 200年以上にわたりアメリカの繁栄を築いたアメリカン・ドリームとフロンティア・スピリッツは今や断末魔と化し、その「トランプ現象」の劇薬は新たな分断を招き南北対立の様相すら呈している。

 同時にその深層には国際金融資本というディープステート(闇の政府)との新たなる独立戦争とも言える現象が存在する。他方、今世紀に入ってからの中国の目覚ましい台頭もあり、建国250年は世界の覇権国家としてのアメリカと決別する歴史的転換点になるのかもしれない。

 ベトナム戦争以後の半世紀にわたるアメリカの衰退は世界の地殻変動に拍車をかける。

 サンクス・ギビングデーのパレードを契機に、マンハッタンの五番街からセントラルパークサウスにかけては、クリスマスの飾りつけで華やかな街になる。ロックフェラーセンターには30メートル超の巨大なクリスマスツリーが設置され、12月3日点灯された。これは1931年から94年間変わらない光景だ。

 ウクライナの戦禍をよそに、スケートリンクも高級ブランドショップのクリスマスの装いも変わらない。ラヂオシティのロケッツダンスも華やかだ。セントラルパークの紅葉も雪景色も変わらず美しい。そして超富裕層と貧困層が生活するビッグ・アップルの変わらない光景だ。

 変わらないニューヨークで変わったものがあるとすれば、42年前に五番街に突然現れたトランプタワーであり、24年前の9.11テロでダウンタウンのWTCビル2棟が消滅したことだ。そしてこの11月4日に投開票されたニューヨーク市長選で、インド系イスラム教徒のゾーラン・マムダニ氏が勝利したことだ。

 ニューグリーンディール政策を掲げる社会主義的左派の政治家がトランプ帝国にくさびを打ち込むように、資本主義の総本山、国際金融都市、人種のるつぼ、移民の街に登場したのだ。

 くしくも同じ日にニュージャージー州とバージニア州でも反トランプの民主党女性候補が当選した。トランプの支持率も陰りを見せている。多民族国家アメリカの内情は複雑だ。奢(おご)れるもの久しからず、アメリカの民主主義は壮絶である。

岡野龍太郎(外交評論家)

(2025年12月18日付『朝雲』より)

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