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時の焦点<国内>

日米首脳会談

協力広がる新時代の同盟

 高市首相とトランプ米大統領が、東京・元赤坂の迎賓館で会談。初の対面での首脳会談は、和やかなムードの中で行われたという。高市首相の対米外交はひとまず無難な滑り出しとなった。

 首相は会談の冒頭、「今や日米は世界で最も偉大な同盟になった」と述べた。

 これに対しトランプ氏は、高市氏のことを安倍元首相から聞いていたとし、「シンゾーも喜んでいるだろう」と首相就任を祝った。「日本の助けになることがあれば、何でもする」とも語った。

 会談で注目を集めたのは、日本の防衛負担。トランプ氏は「日本は防衛能力を大幅に増強している」と評価した上で、米国製装備品の輸入拡大を歓迎する、と述べた。

 日本が在日米軍の駐留経費を負担し、防衛予算も増やす姿勢を示していることを念頭に置いた発言だろう。

 北大西洋条約機構(NATO)の加盟国は、2035年までに防衛支出を国内総生産(GDP)比で3.5%に引き上げることで合意。トランプ氏の強い要請によるもので、米国は日本にも一層の防衛負担を求めている。

 首相は会談で、日本が防衛関連経費のGDP比2%への引き上げを前倒しして実現することなどを説明したとみられる。

 中国は東シナ海で日本の領土・領海を脅かし、最近は太平洋にも空母などを展開して示威行動を活発化させている。北朝鮮とロシアの軍事協力も看過できない。

 安全保障環境の悪化を踏まえれば、日本の防衛力の強化は不可欠だが、その取り組みは日本の判断で進めるべきだ。

 7月の日米関税合意で、日本が5500億ドル(約84兆円)の対米投資を行うことが決まった。首相は会談で、この合意を着実に履行していく考えを示した。

 日本はこの枠組みで、米国産エネルギーを購入する予定だ。日本企業は、アラスカ州で計画されている液化天然ガス(LNG)の開発に参画し、LNGを購入する方向だが、建設コストの増大を懸念する声は多い。

 経済分野での協力強化は、今回の会談の特徴だ。両国はレアアース(希土類)などの供給網構築や、造船能力の向上に関する覚書などに署名した。

 レアアースなどの生産量では、中国が圧倒的なシェアを持っている。中国が輸出規制をちらつかせ、外交交渉で他国に圧力をかけることをけん制するため、日米は協力する必要がある。

 日本の造船業はかつて世界を席巻したが、現在は建造量で中国、韓国に後れを取っている。造船分野での投資拡大は大型のドックなどの建設を促し、経済への波及効果は大きいと言える。

 首脳会談後、トランプ氏は北朝鮮による拉致被害者家族に会い、「できることは何でもしたい」と語った。トランプ氏は金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党総書記との会談に意欲を示す。

 トランプ氏は第1次政権当時、金氏と会談した際に、安倍氏の求めに応じて繰り返し、拉致問題を解決するよう迫った。膠着(こうちゃく)状態を打破するため、高市首相は引き続き、トランプ氏に拉致問題への関与を求めていくべきだろう。

霜月荘六(政治評論家)

(2025年11月6日付『朝雲』より)

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