創刊70年を越える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
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時の焦点<国内>
日米共同訓練
厳しい対中認識が背景に
「海洋強国」を掲げ、沖縄・尖閣諸島周辺などで軍事的な威圧を強める中国に対し、日米両国は対処能力を高める必要がある。そのためには実践的な訓練を重ねていくことが欠かせない。
米海兵隊と陸上自衛隊による共同訓練「レゾリュート・ドラゴン(不屈の竜)」が北海道や九州、沖縄県など8道県で、9月11~25日の日程で行われている。2021年に始まったこの訓練は今年で5回目を迎えた。今回は空自や海自も加わり、日米で過去最大の約1万9000人が参加している。
訓練の主要な目的は、離島への敵の上陸阻止と奪還だ。各地で対艦・対空戦闘の訓練が行われている。日米合わせて10機以上の輸送機オスプレイも投入されている。
日米両国は、訓練の対象を明示していないが、中国を意識しているのは明らかだ。
訓練期間中、米軍は岩国基地(山口県)に、迎撃ミサイル「SM6」や巡航ミサイル「トマホーク」の発射装置「タイフォン」を一時的に設置した。トマホークの最大射程は1600キロとされ、北京までが圏内に入る。
中距離ミサイルの発射装置の設置は、日本では今回が初めだ。タイフォンはフィリピンにも持ち込まれ、中国は警戒感を示している。今回の日本配備は一時的ではあるが、中国に打撃力を示す意味は大きい。
米国はロシアとの間で中距離核戦力(INF)全廃条約を結び、19年までの約30年間、地上発射型の中距離ミサイルを保有してこなかった。
これに対し中国は、射程500~5500キロの地上発射型弾道・巡航ミサイルを約1800発保有しているとされる。米国より優位にあるのは明らかだ。
防衛省は今年度以降、射程1000キロを超える日本製の「スタンド・オフ・ミサイル」や、米国製トマホークの配備を開始する。
米国のミサイル戦力に加え、日本自身が敵のミサイル発射拠点などをたたく反撃能力を使えるようになれば、防衛力は大幅に強化されるだろう。政府はスタンド・オフ・ミサイルやトマホークの配備を急がねばならない。
近年、米軍は自衛隊との共同訓練を積極的に行っている。今回の訓練も、規模を大幅に拡大したのは、米国の意向だとされている。
日本が15年、集団的自衛権の限定行使を認めた安全保障関連法を成立させたことが大きく影響していよう。今後も訓練中の米艦、米機の防護を円滑に進めていきたい。
連携が進む日米の協力だが、課題も残っている。防衛省は3月、陸海空3自衛隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を創設した。米国も在日米軍に一定の指揮権を付与する予定だが、実現していない。指揮・統制機能を一致させることができれば、抑止力は一層高まるだろう。
夏川明雄(政治評論家)
(2025年9月25日付『朝雲』より)