創刊70年を越える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
安保・防衛問題の専門紙です
時の焦点<国内>
TICAD
日本の役割が増している
アフリカが欧米の政策に振り回されている。トランプ米政権は、対外援助を担った国際開発局(USAID)を廃止したほか、アフリカ各国にも相互関税をかけ始めた。欧州も国防費を確保するため、援助を縮小する方向にある。このままではアフリカで公衆衛生の悪化や政情不安に陥る国が増えかねない。日本はアフリカ各国の安定と発展に向け、一層役割を果たす必要がある。
日本とアフリカ各国の首脳級らが集う「第9回アフリカ開発会議(TICAD)」が横浜市で開かれた。今回はアフリカ54カ国中、49カ国が参加。
最終日の8月22日には、AI(人工知能)など日本の技術を活用した経済成長支援策を打ち出した。また、アフリカ内陸部からインド洋にかけて、新たな物流網を整備する構想「インド洋・アフリカ経済圏イニシアチブ」を盛り込んだ「横浜宣言」を採択した。
TICADは、日本が世界に先駆けて1993年に始めたアフリカ支援の枠組みだ。政府開発援助(ODA)などを通じてインフラ整備のほか、官民が連携し、医療や教育の向上に尽くしてきた。
政府は近年、アフリカの成長を日本に取り込むため、民間企業に積極的な投資を呼びかけている。厳しい財政事情からODAを縮小せざるを得ないことも影響している。今回、インド洋からアフリカに通じる物流網を整備する、という新たな構想を打ち出したのも、投資を後押しする狙いがある。
将来的にアジアは人口が減少する一方で、アフリカは人口増が予想されており、成長が期待されている。アフリカとの関係強化は、日本の利益にもなるだろう。
アフリカ大陸は、コバルトなど鉱物資源が豊富だ。経済安全保障の観点から、重要な資源の供給網として各国との結びつきを強めておきたい。
アフリカには依然、途上国が多いが、国連では各国が1票を持っている。国連改革の議論などを有利に進める上でも、アフリカとの関係を強化し続けることが大切だ。
今、アフリカの多くの国が直面している問題は、援助の打ち切りだ。
国連のエイズウイルス(HIV)に関する機関は先月、米政権の資金拠出の停止によって、今後4年間でアフリカのHIVの死者が400万人増える恐れがあると発表した。医療や公衆衛生の分野で、これまで以上に日本が頼られる場面が増える可能性がある。
援助に後ろ向きになっている欧米に対し、「一帯一路」構想を掲げる中国は依然、アフリカで道路や港湾などの整備を続けている。
アフリカと自由主義陣営の距離が広がれば、権威主義的な国が増え、世界が不安定化しかねない。日本は、貧困の撲滅などを粘り強く支援していくべきだ。日本とアフリカ間の自由貿易体制の構築にも取り組んでいく必要がある。
夏川明雄(政治評論家)
(2025年8月28日付『朝雲』より)