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時の焦点<海外>

トランプ調停

半年で6件結実の成果

 トランプ米大統領は7月28日、国境地帯の領有権を巡り軍事衝突が激化していたタイとカンボジアが停戦で合意した、と発表。

 同氏がタイのプムタム首相代行、カンボジアのフン・マネット首相との個別電話会談で、関税発効を8月1日に控え、衝突が続くなら両国とは貿易取引はしないと警告すると、両国首脳は即時停戦の意思を表明した。

 同大統領は発表後、「私は大統領就任後6カ月で多くの戦争を終結させた。和平の大統領であることを誇りに思う」と自身のソーシャルメディアに投稿した。

 この平和が永続するよう願うのみだが、同氏が1月20日の就任以来、「ピースメーカー」(調停者)として戦争を終わらせたか、終結に向けて前進させた戦争は、これで6つ。

 レビット報道官らホワイトハウスのスタッフらが、“トランプ・ザ・ピースメーカー”とのフレーズを公言しても、あながち誇大広告とは言い切れない。

 パキスタンとインドの係争地カシミール地方のインド側で4月下旬、観光客襲撃事件が起きたのを機に、両国はミサイルや無人機で攻撃の応酬。核保有国同士の交戦で、国際社会からは核戦争への懸念が高まっていた。

 トランプ氏は5月10日、「米国の仲介により、両国は完全・即時の停戦に合意した」と発表。両国政府も合意を確認した。

 ブルース国務省報道官は同日、「バンス副大統領とルビオ国務長官が過去48時間、モディ・インド首相やシャリフ・パキスタン首相らに働き掛けた結果、合意が成った」と説明し、「長い48時間だった」との感想を述べた。

 また、トランプ政権はイランの核兵器保有への野望にストップを掛け、イスラエルとイランが停戦で合意した。この恩恵は中東全体に及ぶ。同氏はイスラム・テロ組織ハマスが支配するガザ地区の平和に関しても、大きく進展させた。

 2023年10月のハマスのガザ侵攻で人質になり、今年5月に解放されたイスラエルの青年が米CNNに明かした「地獄の505日間」は興味深い。ハマスは人質に唾を吐きかけ、食事は1日にビスケット1つ。彼の体重は176ポンド(約80キロ)から121(約55キロ)ポンドに激減した。

 ところが「トランプ氏が大統領に当選するや、人質の扱いが一変。食事の量は増え、唾を吐きかけることもなくなった。彼らはカマラ民主党候補の当選を望んでいたから、トランプ氏の当選で脅えだした」。ハマスはトランプ氏が本気なのを知っていた。だから結果を恐れていた。恐れていたので、交渉を始めたのだ。

 米国務省で6月27日、アフリカ中部コンゴ民主共和国と隣国ルワンダの外相が、米政府の仲介で和平協定に調印。調印式にはルビオ国務長官も立ち会った。

 両国の紛争は30年以上も続き、死者は累計約600万人。1月にはルワンダに支援された反政府勢力とコンゴ政府軍との戦闘が激化していた。

 ウクライナ戦争に関しても、米政権は英仏独より遥かに前面に出て、停戦に向けた交渉を続け、何度か成功した。ところで、以上6件中、国連が上げた成果はどれなんだろう。

草野 徹(外交評論家)

(2025年8月14日付『朝雲』より)

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