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時の焦点<国内>
護衛艦の輸出
豪との防衛協力深めたい
日本の護衛艦の高いステルス性能や、省人化技術が決め手となったようだ。日豪両国による護衛艦の共同開発を、防衛協力の強化につなげていく必要がある。
豪州政府が、海軍で導入を計画している新型護衛艦について、三菱重工業が製造している海上自衛隊の「もがみ型」護衛艦をベースに、能力を向上させた艦艇を採用する、と発表した。来年前半に正式に契約する予定だ。
日本が開発した完成品の装備品輸出は、フィリピンへの警戒管制レーダーに続き2例目となる。過去には豪州の潜水艦を受注しようとしたが、現地での雇用などをアピールしたフランスに敗れたこともある。
今回は防衛装備庁と三菱重工が協力し、豪州の政財界に対する説明会を開くなど、官民が手を携えたことも奏功したとみられる。
豪州の計画は、老朽化した海軍の艦艇を新型に置き換えるため、2030年以降に11隻を導入する、というものだ。まず3隻を日本で、その後、残る8隻を豪州で建造する。
豪州は昨秋、共同開発の協力相手を日本とドイツに絞り込んでいた。
日本が受注競争を制したのは、豪州側のニーズに配慮したことも大きい。豪海軍が購入予定の米製のトマホークなどを搭載できるよう、改良することなどを約束した。
また、通常の護衛艦の半分程度の約90人で運用できるといった「もがみ型」の特徴も評価された。艦橋や戦闘指揮所などの計器類を大幅にデジタル化し、わずかな人数でも艦の状態や周辺海域の状況を確認できるようになっている。豪軍も人員不足に悩んでいるという。
中国は豪州周辺でも威圧的な活動を繰り返している。今年2月には中国海軍のフリゲートなど3隻が、豪州とニュージーランドの間の海域で実弾射撃訓練を行った。その後、豪州を周回するように航行したという。
海自も、「もがみ型」とその改良型を計24隻配備する。共に米国の同盟国である日豪が同じ護衛艦を使って運用性を高めれば、中国への抑止にもなるだろう。
部品の共通化を進め、艦船の保守や補給を日豪どちらでもできるようにすることが求められる。
他方、課題も残っている。三菱重工は今後、豪州の技術者に円滑に技術を移転していかねばならない。豪州にサプライチェーンを構築することも欠かせない。
日本の防衛産業は、契約先が自衛隊に限られているため苦境が続き、撤退する企業が相次いできた。近年防衛費が増額され、ようやく注目を集めるようにはなったが、新規に防衛事業に乗り出す企業は少ない。
海外に販路を広げ、防衛産業を育成していくことは経済成長にもつながる。共同開発の事例を着実に増やしていきたい。
夏川明雄(政治評論家)
(2025年8月14日付『朝雲』より)