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時の焦点<海外>

イラン核を破壊

世界を揺るがした12日間

 イスラエル軍は6月13日、イランの核施設に大規模な攻撃を敢行したほか、同時に数十人の軍幹部や核科学者をドローンなどで奇襲し、イランの核計画を完全に破壊した。

 トランプ米大統領は24日、「12日間戦争」の停戦を発表した。だが、今回の攻撃の計画全容が明らかになった際には、イスラエル軍および情報当局の優れた能力・技術に世界は今以上に驚嘆することだろう。

 イスラエルとイランの今回の戦争が中東に及ぼす影響は、正確なところはまだ分からない。分かっているのは、影響は極めて重要で、多分、世界を揺るがすほど重大ということだ。

 イランは少なくとも現在、何ら脅威ではない。これは、サウジアラビアが歴史的な「アブラハム合意」に参加する可能性を開いたということである。

 米国を保証人に、イスラエルとサウジが反イランで暗黙の同盟関係となる。その結果、米―サウジ―イスラエルの枢軸が中東地域を支配する構図が見える。

 仮にこれが現実となれば、他の諸国も同合意に参加する道を選択するかもしれない。こうなると、もう天地が逆さま。アラブ陣営からかつて「のけ者」扱いされてきたイスラエルが、共通の敵に対して協力するのだから、世界がひっくり返ったようなものだ。

 しかし、そうした事態には今すぐにはならない。イスラエルは第一にイスラム・テロ組織ハマスの強硬な活動を排除する必要があるからだ。注目するのは、ハマスにはもう我慢できないというパレスチナ市民がついに出てきた事実だ。

 英ロイター通信が6月27日付の記事でハマスとガザの現状を伝えている。

 これによると、「ハマスは司令官が足りず、地下トンネル網も破壊された上、同盟国イランからの支援も不確実になった」「ハマスは対立する地元の有力部族やイスラエルの軍事圧力に直面し、ガザで生存を懸けて戦闘している。イスラエルはハマスの対立部族を公然と支援している」と報じている。

 さらに「ハマスは勢力再結集のために停戦が必要だが、イスラエルはガザ退去と武装解除を要求している」と主張する。

 今回の対イラン戦争の“副産物”の一つだが、米国にとってハマス対策は二次的問題に後退し、アブラハム合意拡大の交渉活性化と中東の秩序再編が前面に出てきた。

 トランプ政権のウィトコフ中東担当特使は6月25日のCNBCテレビで、「大統領の主要な目標の一つはアブラハム合意の拡大で、我々は努力中だ。人々が考えもしなかった国々も参加した正常化を希望する」と抱負を語っていた。

 しかし、米紙「ウォールストリート・ジャーナル」(6月26日付)は、イスラエルの軍事的成功でサウジは同国との関係正常化の動機を弱め、パワー増強に懸念を強めたと指摘。

 同紙によれば、サウジはパレスチナ国家(イスラエルは断固反対)への信用できる道筋を主張した。ある当局者はイスラエルとの外交関係樹立に関し、「緊急なのはパレスチナ国家であり、イランの危険性ではない」とまで明言した。

草野 徹(外交評論家)

(2025年7月10日付『朝雲』より)

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