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時の焦点<海外>
高濃縮ウラン製造加速
イラン核開発
国際原子力機関(IAEA)は5月31日、イランの核開発に関する最新状況をまとめた極秘報告書を加盟国に送付した。
米ウォール・ストリート・ジャーナル紙と英ロイター通信は報告書を事前に閲覧できた(同機関が欧米のメディア各1社にリークしたわけだ)。その記事を読むと、延々と続く核協議に何の意味があるのか疑問も湧く。
ウォール・ストリート・ジャーナルが31日伝えた報告書の内容によれば、イランは濃縮度60%の高濃縮ウランの製造を加速。今年2月初めの報告書では、貯蔵量は274・8キロだった。ところが、5月時点では408・6キロ。わずか3カ月で1・49倍に増加した。
濃縮度60%を核兵器級の90%に高めることは短期間で可能で、IAEAの尺度では、408・6キロは「核爆弾9個」の製造に十分な量になる。
イランが米英仏独ロ中の6カ国と約束した2015年の核合意。同合意は、濃縮ウランの貯蔵量は300キロ以下、濃縮度は3・67%に制限していた。イランの重大な合意違反は明々白々だ。
また、ロイターが31日伝えた別の「包括的」報告書によると、イランは、IAEAが長期間ずっと調査を続けてきた場所3カ所で、極秘に核開発活動を行っていたという。
同報告書は、イランの近年の核開発活動を要約し、組織的かつ極秘の活動―うち一部活動は核兵器製造に密接に関連―を明示している。
そして「これら3カ所および他の関連場所は、イランが2000年代初めまで未申告で実施した核開発計画の一部。さらに一部活動では未申告の核物質が使用された」と結論付けている。
この「包括的」報告書は、IAEAの理事会が昨年11月に提出を要請していた。
米英仏独の西欧4カ国は同報告書で明らかにされた新事実に基づき、IAEAが「イランは核不拡散の義務に違反」と宣言するよう求める方針。
4カ国はIAEAが次回理事会で採択するように決議案の提出を計画しているが、もし決議案が採択されれば、過去約20年間で初めて、イランが公式に違反・不服従を問われる形になる。
イランとの核交渉を眺めていると、北朝鮮の核保有をめぐる交渉の歴史の苦い記憶に思いが至る。
クリントン政権時代の「関与政策」でも北朝鮮は基本政策を変えず、1994年の北朝鮮核情勢緊迫後の米朝「合意枠組み」ですら、核開発計画を凍結できなかった。
94年の核危機の際に訪朝したカーター元大統領が突破口を開いたという米朝交渉の合意の通りなら、北朝鮮の核開発はとっくに「完全放棄」になっていたはずではないか。北朝鮮に欺かれたことははっきりしている。
クリントンの後、政権に就いたブッシュ大統領が「関与政策は機能しない。北朝鮮は自分たちの関与について約束を守らないのだから」と批判したのは正論。
イランは約束を守るのか? 上記2つの報告書は、核兵器は製造しないと言って、これほどの高濃縮ウランを追求するのはイランだけ―と“重大な懸念”も明記している。
草野 徹(外交評論家)
(2025年6月12日付『朝雲』より)