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時の焦点<国内>

少子化対策を総合的に

出生数70万人割れ

 政府はさまざまな少子化対策を実施しているが、効果を上げているとは言い難い。経済は停滞し、社会の活力は低下することが避けられない。年金、医療、介護などの社会保障制度を維持していくのも難しくなる。

 希望する人が結婚でき、子供を産みたいと思ってもらえる社会をつくらねばならない。政府は現在の対策を総合的な観点から見直すべきだ。

 政府が2024年の人口動態統計を発表。日本人の出生数は68万6061人となり、1899年に統計開始以来、初めて70万人を割った。

 1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率も、過去最低だった2023年の1・20を下回って1・15となった。また、婚姻件数は、戦後最少だった23年の47万4741組に次いで少ない、48万5063組にとどまった。

 岸田前政権は、若年層が比較的多く残っている30年までを少子化改善の「ラストチャンス」と位置づけ、集中的な少子化対策に乗り出した。

 ただ、その中身は児童手当の拡充や、育児休業中の給付金の増額といった現金給付に偏っている。子育てにかかる経済的な負担を軽減することは重要だが、それだけで少子化に歯止めがかかるとは思えない。

 働き方の一層の改革は、少子化対策のカギとなるのではないか。政府は企業に雇用の正社員化を一層求めていく必要がある。民間に正社員化を促すうえでは、国や自治体が非正規職員の採用を減らし、正規職員に切り替えていくことも検討すべきだ。

 海外でも少子化に悩んでいる国は多い。日本より出生率が低い韓国では、社員に出産祝い金として約1000万円を支給する企業が現れた。韓国・仁川市は、新婚や小さな子供がいる家庭を対象に、月の家賃が3000円で住めるマンションを提供している。住む場所を確保し、若い夫婦の負担を軽減する狙いがあるようだ。日本でも住宅補助を充実させていくべきだろう。

 一方、子供を産み、育てることの大切さといった当たり前の価値観を世代間で継承していくことも大切だ。家庭や学校で家族の大切さを子供たちに教えていくべきだ。

 石破政権は、患者の医療費負担に上限を設けている高額療養費制度について、上限を引き上げることで社会保障費を削減し、少子化対策の財源を捻出しようとしたが、患者団体や野党から「患者の経済的負担が増え、治療を控える恐れがある」といった批判を浴び、結論を先送りした。少子化対策の財源を確保していくことも欠かせない。

 最近は、遊ぶカネを手に入れるために、犯罪すらいとわない若者もいる。まじめに働き、家庭を支えていくことを軽視するかのような風潮は好ましくない。そうした考え方を社会全体で共有していきたい。

夏川明雄(政治評論家)

(2025年6月12日付『朝雲』より)

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