創刊70年を越える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
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時の焦点<国内>
「片務的」とは言えぬ
日米安保協力
トランプ米大統領が、日米の安全保障体制について、繰り返し不満を示している。関税を巡る日米の政府間協議を有利に進める狙いがあるのかもしれないが、長年の信頼関係を毀損(きそん)するようなことがあってはならない。政府は事実誤認を正す必要がある。
日米安保条約に関するトランプ氏の主張は、「我々は数千億ドルを支払って日本を守るが、彼らは何も支払わない」といった内容だ。これは明らかに間違っている。
トランプ氏は、日本に限らず、同盟国のために米国は多くの防衛上の負担を強いられているとして、各国に一層の負担を求めている。こうした米側の主張は今後も続くとみられている。
日米安保条約は、米国の対日防衛義務を定める一方、日本は米国に基地を提供することを定めている。米国は条約制定当時、米軍のアジアでの活動拠点を日本に設けようとした。こうした「非対称」の同盟は、米側の要求に基づいたものだ。
また、日米地位協定では、在日米軍基地の地代などを除いた駐留経費は、米側が賄うとしているが、1970年代に米側が日本に一層の負担増を求めたことから、その後、別の協定を結んで日本側の支出を増やした。在日米軍施設の光熱費などを日本側が負担するもので、かつて「思いやり予算」と呼ばれていた。
こうしたさまざまな経費を合わせると、日本側の負担は2022年度から5年間で1兆円超に上っている。
そもそも在日米軍基地は、日本の防衛だけでなく、極東という幅広い地域の安全確保という役割を担っている。韓国の防衛を主な役割とした在韓米軍基地などと比べると、在日米軍基地の果たしている役割は重い。日米の安保体制は、片務的とは言えない。
さらに日本は15年に安全保障関連法を成立させ、自衛隊による米艦艇などの防護を可能にした。政府は、日本がいかに米軍の活動を支えているか、実情を丁寧に説明していくべきだ。
一方、日本周辺の安保環境は悪化しており、日米の防衛協力を深めていくことは大切だ。防衛装備品の共同開発を進めることや、日本が米国製の装備品の購入を増やす選択肢はあり得るだろう。
ただ、米政府から最新鋭の装備品を購入する有償軍事援助(FMS)を巡っては、日米間で契約したにもかかわらず、日本への納入が遅れる事例が目立っている。最新鋭の戦闘機F35は、24年度に配備予定だった6機がまだ日本に届いていない。
これでは米国からさらに装備品を購入する、といっても、日本国民の理解が得られない。FMS調達の改善を図ることは急務だ。
夏川明雄(政治評論家)
(2025年5月15日付『朝雲』より)