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時の焦点<国内>
外交力が問われる協議だ
日米関税交渉
日米の関税交渉が始まった。粘り強い協議で米国との接点を探りつつ、自由貿易体制の危機を回避できるか。各国に先駆けた交渉に世界の注目が集まる中、日本の外交力が問われている。
トランプ米政権は、自動車などへの高関税策や「相互関税」を相次いで発動した。これを受け、赤沢経済再生相が訪米し、米ワシントンで初回の交渉に臨んだ。
赤沢氏はトランプ大統領と約50分間、会談した後、ベッセント米財務長官らと約75分間、閣僚級協議を行った。協議では、早期合意を目指す方針で一致したという。
赤沢氏は会談後の会見で、トランプ氏から「日本との協議が最優先だ」との発言があったと述べた。トランプ氏は自らのSNSに「大きな進展だ」と書き込んだ。
日米双方とも交渉の詳細を明らかにしていないが、ひとまず無難なスタートを切ったと言えるのではないか。日米ともに互いの利益となる道筋を探っていく必要がある。
トランプ氏は急きょ、赤沢氏との会談を決めた。対日重視の姿勢を印象づけ、日本との協議を有利に進め、他国との交渉に弾みをつけたかったのではないか。
赤沢氏は、米側に関税措置の見直しを申し入れた。トランプ氏が関税措置によって製造業の米国内への回帰を目指すのであれば、日本企業の投資意欲を損なうような政策を取るべきではない。
米国は農産品などの関税引き下げを求めたとみられている。自動車分野に「非関税障壁がある」といった主張を展開した可能性もある。
日米両国は、第1次トランプ政権時代の2019年に結んだ貿易協定で、日本が米国産の農産品にかけている関税を、また米国は多くの工業品の関税を、それぞれ引き下げることを決めた。この際、米国は日本車への追加関税を課さないことを約束した、と日本側は説明してきた。
日本は当時、農産品については環太平洋経済連携協定(TPP)と同水準まで関税を引き下げた。
これ以上の譲歩は困難ではないか。自動車の安全基準などを「非関税障壁」に位置づけようとする米国の姿勢も、理解に苦しむ。
日本が交渉力を強化するには、自由貿易体制を堅持する同志国を増やしていくことが重要だ。
日米交渉では、安全保障政策も議題となった。トランプ氏は赤沢氏に、米国だけが防衛義務を負っているのは不公平だと持論を繰り返したという。
日本は日米安保条約に基づいて米国に基地を提供し、多額の在日米軍駐留経費も負担している。15年には、安全保障関連法で米艦などの防護を可能にした。
政府は、米側にこうした事実を繰り返し伝えると共に、アジアの平和と安定のために防衛力を強化していかねばならない。
夏川明雄(政治評論家)
(2025年4月24日付『朝雲』より)