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時の焦点<海外>
米の仲介外交が本格化
ウクライナ停戦
ロシアがウクライナに侵攻してから3年余り。両国の仲介役を任じる米国のトランプ政権の強い働き掛けの結果、ウクライナでの戦闘終結に向けた動きが本格化してきた。
米国がウクライナと3月11日にサウジアラビアで行った高官協議で、ウクライナが米国の一時的な即時停戦案を受け入れると共に、米国がウクライナへの軍事援助と機密情報の共有を再開する方針を示したことを受けて、事態が動きだした。トランプ米政権は今後、首脳会談などをテコとして、ロシアから米国の停戦案への同意を取り付けたい構えで、ロシア側の出方がその後の和平交渉につながるかどうかを占う上でのカギとなる。
米国が仲介する両国の停戦交渉をめぐっては、ゼレンスキー大統領が2月末の訪米の際、ロシアへの姿勢についてトランプ大統領と激しい口論となり、米側が要求したウクライナの鉱物資源開発に関する合意文書にも署名せずに帰国。米国は首脳会談の決裂後、ウクライナへの軍事援助などを停止し、ロシアとの交渉の席に着くよう圧力をかけていた。
戦況で劣勢に追い込まれているウクライナにとって、最大の軍事援助国である米国の支援取り付けは死活的に重要で、ゼレンスキー氏も米国の顔を立てる形で和平交渉の用意があると表明し、米側との関係修復を進めざるを得ない状況に置かれた。
米国の停戦案に対するロシアの対応が焦点となったが、プーチン大統領は13日、米国の提案を原則支持するとしつつも、いかなる停戦も紛争の根本的な要因を排除した上で恒久的な平和につなげる必要があるとし、多くの重要事項で詳細を詰めなければならないと述べた。停戦案に対するプーチン氏の条件付きの支持は、米国に誠意を示し、トランプ大統領との首脳会談に道を開く狙いとみられるが、プーチン氏が多くの説明や条件を求めたことを踏まえると、現時点で迅速な停戦は困難な見通しだ。
ただ、一時的な停戦が実現したとしても、その後の和平交渉をめぐっては、ロシアが併合したウクライナ東部・南部の4州の領土の扱いやウクライナの北大西洋条約機構(NATO)加盟問題を含む安全の保証の具体的措置など主要な対立点で双方の立場の隔たりは大きく、何らかの譲歩や歩み寄りがなければ、和平合意を見通すことはできない。
また、停戦による戦闘終結を外交上の成果としてアピールしたいトランプ大統領の足元を見て、ロシアが停戦・和平交渉を有利に進めることを狙って、ウクライナへの要求をつり上げてくる懸念も取り沙汰されている。ウクライナをロシアとの交渉の場に引き出したトランプ政権にとって、「公正で永続的な平和」を訴えるウクライナや欧州同盟国の要求を可能な限り実現させる必要もある。ロシアに対する硬軟両様の働き掛けなどを含め、仲介役として「トランプ流ディール(取引)外交」の真価が問われる局面が続く。
伊藤 努(外交評論家)
(2025年3月20日付『朝雲』より)