創刊70年を越える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
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時の焦点<国内>
少子化克服へ手段尽くせ
出生数過去最少
国内の出生数の減少に歯止めがかからない。このままでは経済の活力はそがれ、社会保障制度も立ちゆかなくなる。少子化を克服するため、政府は効果的な対策を講じていかねばならない。
厚生労働省がまとめた人口動態統計の速報値によると、2024年の出生数は72万988人で、9年連続で過去最少を更新した。日本で生まれた外国人も含まれているため、6月に発表される日本人のみの出生数は70万人を下回る見通しだ。
近年は少子化のスピードが加速している。前年の出生数からの減少率は、21年は3パーセント台だったが、22年からは3年連続で5パーセント台となっている。
新型コロナウイルスが流行した20年以降、出会いの機会が少なくなり、結婚する人が減ったことが一因とみられる。
24年の婚姻件数は49万9999組だった。戦後最少を記録した前年を1万組強上回ったが、コロナ禍前の水準には戻っていない。今後、少子化傾向を反転させることは容易ではないだろう。
結婚するかしないかは個人の自由だ。ただ、結婚したくても経済的な理由であきらめている人がいるとすれば問題だ。安定した収入を得にくい非正規雇用で働いている若者は多い。
政府は、若者の正社員化や賃上げを企業に促していくべきだ。生活を充実させられるよう、長時間労働の是正など働き方改革も徹底したい。
岸田前政権は「次元の異なる少子化対策」を掲げ、24年に子ども・子育て支援法などの改正法を成立させた。児童手当は所得制限がなくなり、支給期間は従来の「中学生まで」から「高校生年代まで」に延びた。第3子以降の支給額も月3万円に増えた。25年度からは、子どもが3人以上いる世帯を対象に、大学や専門学校の授業料などの無償化も始まる予定だ。
「子育てや教育にお金がかかりすぎる」と感じている人は少なくない。子育て世帯の経済的な負担を減らす一連の施策は、こうした不安を和らげることにつながろう。
政府は自治体と連携して周知を徹底すると共に、各施策が効果を上げているかを定期的に検証し、必要な見直しを図ってほしい。社会全体で子どもや子育て世帯を応援するという機運を高めていくことも大切だ。
少子化が進めば、さまざまな業界で人手不足に陥る事態が想定される。公共サービスの担い手が足りなくなれば、国民生活に深刻な影響が及ぶ。
このうち、自衛官は現状でも定員割れが常態化している。国民の生命と財産を守る役割を担っている自衛官を十分に確保できなければ、日本の安全が揺らぎかねない。
その対策として、政府は24年末、自衛官の手当の拡充や生活・勤務環境の改善などを柱とする基本方針を決めた。着実に実行し、厳しい任務に見合った十分な待遇を確立することが不可欠だ。
真田吾郎(政治評論家)
(2025年3月6日付『朝雲』より)