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公平さをどう確保するか
衆院選挙制度
都市部と地方の人口格差が広がり、1票の格差の是正にこだわっていたら、地方の声は国政に反映されにくくなる一方だ。SNS上の真偽不明な情報が、選挙結果に影響を与えるような事態も放置できない。時代の変化に合わせ、選挙制度を改めていくことは政治の責務だ。
与野党の実務者でつくる「衆院選挙制度に関する協議会」(座長・逢沢一郎自民党衆院議員)が、額賀衆院議長の下に設置された。初会合では、年内に改革案をまとめる方針で各党が一致した。
小選挙区比例代表並立制での衆院選は1996年に初めて実施され、昨年で10回目となった。制度が目指した政党本位の選挙は、一定程度定着したと言えるだろう。
一方、さまざまなひずみも目立っている。党首の人気や風頼みの選挙となりやすく、議員が「小粒になった」との指摘は多い。司法は、投票価値の平等を法の下の平等と読み替え、1票の格差是正を国会に迫り続けてきた。国会は定数是正などで格差を縮小してきた。
ただその結果、過疎化が進む地方選出の議員は減り続けている。このままでは、有権者が代表に政治を託す代議制民主主義が揺らぎかねない。
衆院の選挙制度について、石破首相は昨年、「中選挙区連記制」を提案した。中選挙区制に戻すと同時に、有権者が複数の候補に投票できる制度だ。例えば、有権者1人に2票を与えた場合、同じ政党の候補2人に1票ずつ票を投じることが可能だ。他方、与党と野党の候補に1票ずつ投票することもできる。
カネがかかりやすい中選挙区制の弊害を取り除きつつ、多様な選択肢を提供する狙いがある。ただ、これでは有権者が誰を当選させたいのか、その意思が分かりにくい。どの党も過半数を確保できず、政治が不安定になる可能性もある。
衆院の選挙制度を考える上で、参院との役割分担をどう図るかも重要な課題だ。衆参両院が合同で協議する場を設けてはどうか。
選挙制度とは別に、選挙活動の悪用も深刻だ。昨年の兵庫県知事選では、SNS上に真偽不明の情報が氾濫した。動画などの閲覧回数が増えるほど、多額の広告収入が得られるというSNSの仕組みが、そうした投稿を助長させたとされる。
兵庫県知事選ではまた、自らは当選を目指さず、他候補の応援のために出馬し、「2馬力」の選挙運動を展開する候補も現れた。
昨年の東京都知事選では、政治団体がポスターを貼る権利を事実上販売した結果、風俗店の広告などが掲示板に張られてしまった。選挙をカネもうけに利用することは許されない。
政府と与野党は課題を整理し、法規制を含めて早急に対策を講じるべきだ。
夏川明雄(政治評論家)
(2025年2月13日付『朝雲』より)