創刊70年を迎える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
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朝雲寸言

 

 剣道に「残心」という教えがある。相手を打突(だとつ)した後も警戒を怠らない気構えのことで、弓道や居合道などでも重んじられると聞く。人間は何か事を成した後、つい気を抜きがちだ。そんな油断を戒める教えは、対馬沖海戦後の名言「勝って兜(かぶと)の緒を締めよ」にも通じる。

 4月下旬、スーダン邦人救出任務で5機の自衛隊機がジブチに飛んだ。関係国・機関の支援を受けつつ陸路ポートスーダンに辛うじて脱出した邦人たちは、迎えに来た自衛隊機を見て安堵したことだろう。その後、派遣部隊は追加の救出要請に対処できるよう現地で残心を示していたが、撤収命令を受け、全機が無事に帰投した。

 印象に残ったのは、5月10日に最後のC130が小牧基地に着陸したときの報道ぶりだった。降りて来た隊員たちを基地の同僚や家族が温かく出迎える風景を、読売新聞や名古屋テレビなどが報じていた。撤収命令から約2週間が経過し、世の中の関心はすでに他のことに移っていた。それでもこれらの社は「本当の意味での派遣任務完了」を報じることで、報道機関としての残心を示した。

 国防の任に就く者が全力で国家・国民のため献身する一方で、国民もそんな防人たちの身を案じ、ねぎらい、感謝の心を忘れない。それが民主主義国家にあるべき国防組織と国民の関係だと思われる。そのつなぎ目の役割を、一部の心ある報道機関がきちんと果たしてくれたことを忘れない。

(2023年5月25日付『朝雲』より)

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