創刊70年を迎える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
安保・防衛問題の専門紙です
朝雲寸言
1件の重大事故の裏には29件の軽微な事故があり、その背後には300件の事故に至らない「ヒヤリ・ハット」した事例があるという。
330の法則とかハインリッヒの法則と呼ばれる労働災害の経験則は重大事故を防止するためには事故に至らないひやりとした段階から対処することが必要であることを教えている。
危険な訓練を止めれば事故は減るというのは重大事故の背後にある300件のヒヤリ・ハットを無視する本末転倒の考えである。危険な訓練をするから事故が起こるのではない、日常の訓練に潜む危険を見積もり、不安全状態をゼロにする徹底さが必要なのだ。
しかし、どんなに手を尽くしても事故や災害は起こる。危険予測に基づきあらゆる対策を講じても事故の発生を防ぐことは不可能に近い。
宮古島沖で墜落した陸自UH60ヘリの事故から1カ月が経過し、民間業者によって機体の一部が引き上げられフライトレコーダーが回収された。事故原因の究明が待たれる。
現職師団長をはじめ10人の隊員が直面した事態にご家族および関係各位の胸中を思うとき、まさに断腸の思いを禁じ得ない。
それでも南西諸島方面の防衛は片時の空白も許されない。まなじりを上げ前を向いて歩き続ける以外に道はないのだ。
今はただ行方不明となっている隊員諸官の一刻も早い救出を祈ると共に、国を守るという任務遂行の厳しさを思う。古人曰く「任重くして道遠し」と。
(2023年5月18日付『朝雲』より)