創刊70年を迎える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
安保・防衛問題の専門紙です

　ボスニア内戦、コソボ紛争、スマトラ沖地震、パンアメリカン航空爆破事件から新型コロナウイルスまで、国を問わずに悲劇の最前線に無給で駆け付け、命がけの救命医療を続けてきた英国人医師による迫真のドキュメンタリー。

　著者は英・マンチェスター大学国際救急医学教授で、世界保健機関（ＷＨＯ）や英国政府と協力し、戦争や災害などで助けを必要とする人々を救ってきた。

　銃弾の飛び交う中、時にスナイパーから命を狙われ、時に脊椎骨折の重傷を負い、時にマラリアや重金属中毒に苦しみながらも緊急医療活動をやめなかった著者の綴るエピソードの数々はどれも衝撃的だ。それらを武勇伝としてでなく、ましてきれいごとでも感動秘話的でもなく、リアルな現場のルポルタージュとして淡々と伝える。自身の怒りや弱さも隠さない。

　「シニシズム（冷笑的な態度）は何も生み出さず、何もしないことを正当化しようとする。何もしないことは、けっして中立的な行動ではないことも忘れてはならない」――。

　緊急医療に命を懸けた医師の凄みに圧倒される。（ハーパーコリンズ・ジャパン刊、２２００円）