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ブックレビュー
「ロシア・チェチェン戦争の628日 ―ウクライナ侵攻の原点に迫る」 林 克明著
「やがてロシアの矛先はウクライナをはじめヨーロッパに向かうだろう。その時になってヨーロッパをはじめ、世界は事態の深刻さに気づき、あわてふためくだろう」――。
これは1995年末のチェチェン戦争時に、ロシアと戦っていたチェチェンのジョハル・ドゥダーエフ大統領の言葉だ。
本書は、ジャーナリストの著者が戦火のチェチェンでさまざまな人と知り合い、同じ屋根の下で過ごし、同じものを食べ、危険や恐怖をともにして駆け回った見聞録だ。今回新たに2章分を追加。自身がチェチェンで経験したことを通じて今般のウクライナ情勢に至るつながりも解説する。
本書を読むと、今現在ウクライナで起きているロシア軍の行動は、当時のチェチェンでのものとでほとんど変わりがないことが分かる。例えば先のドゥダーエフ氏の発言。「ロシア軍は武器を持たない丸腰の市民に攻撃を加えているだけではないか」――。これは紛れもなく現在のウクライナの惨状を言い当てている。
「この土地には物質文明とは違う精神文化が根付いている」という言葉から、著者がチェチェンの人々に魅せられた理由もよく理解できる。
(清談社刊、1980円)