創刊70年を迎える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
安保・防衛問題の専門紙です

ブックレビュー

「撤退戦―― 戦史に学ぶ決断の時機と方策」 齋藤 達志著


 著者は防衛研究所戦史研究センターに勤務する2陸佐(再任用)。専門は近代日本軍事史、戦略・作戦・戦闘、戦史研究、旧軍の公文書管理などで、これまで多数の論文を執筆している。

 陸自幹部学校などで戦術・戦史教官として長年勤務してきた経験なども踏まえ、九つの戦史にスポットライトを当て、それぞれの「撤退の決断」を客観的に描いた。

 冷静かつ専門的な言葉で戦争の実相を事実そのものに語らせる「戦史」のアプローチを用い、大東亜戦争時の日本軍のガダルカナル、インパール、キスカからの各撤退をはじめ、沖縄戦における第32軍の南部島尻への撤退、ノモンハン事件における第23師団捜索隊の無断撤退――などを取り上げ、政府、軍統帥機関、現場指揮官が下した決断とその背景、さらには結果を分析し、窮地から脱する善後策を探る。

 著者は「はしがき」の中で、これらの分析が軍事以外にも十分教訓となり得ると指摘した上で、「人間の命が優先か、任務が優先か、それぞれ決断を迫られた者の哲学、勇気、決断力とリーダーシップ、教養と創造力、運、さらには人間としての懐の深さなどを読み取ってほしい」と執筆に懸けた思いを述べている。

 (中央公論新社刊、2970円)

最新ニュースLATEST NEWS