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ブックレビュー

「神は賽子(さいころ)を振らない ―第32代陸上幕僚長 火箱芳文の半生」 渡邉 陽子著、火箱 芳文監修


 月刊『PANZER』に2019年5月号から昨年10月号まで連載していた記事を書籍化。元陸幕長・火箱芳文氏の防大入校時から陸幕長として退官するまでの約40年間を、ライターの渡邉氏が単なる「えらい人の武勇伝」にならないよう、火箱氏本人曰く「身ぐるみを剥がされる思い」で語らせた回想録。

 一自衛官のサクセスストーリーに思える経歴の中には、待ち焦がれた異動もあれば、「俺の状況は終わった」と打ちのめされた人事もあったという。時には組織の中で翻弄され、無力さを痛感することもあったが、部隊のため、そして自衛隊のために絶え間なく精進する姿、そして何よりも火箱氏本人の温かい人間性に起因した多くのエピソードは、同氏がまさに「愚直に努力を重ねる人間」そのものであることを読者に訴える。

 徹底した現場主義とリアリズム、そして人間愛。それらを武器に、東日本大震災という未曽有の国難時に陸幕長として陣頭指揮を取った事実は記憶に新しい。

 本人の造語である「即動必遂」を実践したリーダーの生きざまは、自衛官のみならず、社会人、学生など多くの読者にとって示唆に富む内容となっている。

 (アルゴノート刊、2200円)

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