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ブックレビュー

「小笠原長生と天皇制軍国思想」 田中 宏巳著


 艦隊や中央の要職を経ずに、日本海軍の中将までのぼりつめた小笠原長生にフォーカス。防大名誉教授の著者が小笠原中将の日記を中心にその半生を描く一冊だ。

 著者は最初に、日清・日露海戦史編纂や忠君愛国物の執筆者としての小笠原氏を描く。日清戦争の教訓を生かし、日露戦史編纂事業を小笠原氏らが整備したいきさつや編集方針の分析が描かれる。

 さらに小笠原と旅順攻略の英雄乃木希典との親交や学習院御用掛と「常盤」艦長の二足のわらじをはき、やがて東宮御学問所幹事となるなど皇室との強いつながりについても紹介。この特異な経歴が中将昇任につながっていくことをわかりやすく解説する。

 さらに東郷平八郎元帥のブレーンとしての側面や強固な天皇親政の実現の信条のもと、五・一五事件などを小笠原氏が描写する過程を丁寧に読み解く。

 天皇親政を理想政治と信じた東郷元帥や小笠原中将の行動を本書で知ることで、近代日本の実像が見えてくるだろう。

 (吉川弘文館刊、13200円)

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