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ブックレビュー

「インド太平洋戦略の地政学」 R・メドカーフ著、奥山 真司、平山 茂敏監訳


 日米豪印4カ国からなる「クアッド」の創設を早期から提唱していた豪州国立大学教授である著者が、外交官、上級情報アナリストとしての勤務を通じて得られた知見をもとに、インド太平洋地域における戦略をまとめたのが本書だ。

 戦略論を扱う書は、大国に求められる役割を中心に書かれることが多いが、本書ではインド太平洋地域の中堅国が米中対立の中で果たすべき役割を説いている。

 まず「インド太平洋」の概念の成り立ちを歴史的背景から示し、同地域を構成する多様な国家が外交、軍事、経済、エネルギーなど多くの分野で相互に連接、いずれの分野も中国の影響力が拡大している現状を、事例を挙げて解説している。

 最終章では、米国の関与を取りつけつつ、域内の自由意志を持つ中堅国家が(1)開発(2)抑止(3)外交(4)団結(5)レジリエンス――の五つの原則の下で「競争的共存」を実現することが、現実的に望ましい対中関係の状態であるとしている。

 2国間主義、多国間主義だけにとらわれない戦略的視点を本書は提供している。

 (芙蓉書房出版刊、3080円)

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