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ブックレビュー
「成田空港検疫で何が起きていたのか―検証 新型コロナウイルスの水際対策」 田中 一成著
国内へのウイルス流入を阻止する最初の関門である空港検疫。その水際の最前線で何が起こっていたのか――。
「100年に一度」ともいわれる新型コロナウイルスのパンデミックが起きる前年の2018年から昨年の東京五輪開催を乗り越えるまでの期間、厚生労働省成田空港検疫所長を務めた著者による貴重な現場の記録だ。
圧倒的な人員不足の中、現場ではさまざまなドラマが起きていた。検疫体制強化のため、机や椅子などの備品をレンタルしようとしても、“ウイルス汚染”の風評被害を恐れたリース業者からはかたくなに拒否されたり、鳴りやまないクレーム電話やデマに悩まされたり……。ついには、パンデミック下の五輪における検疫という前代未聞の課題に立ち向かう。
現在も検疫所の所員たちは「鉄をも溶かす」意気でこの難局を乗り越えようと頑張っている。
しかし、作戦を立てる人はその魂を当てにしてはいけない。現場の頑張りだけに依存するような作戦を立ててはいけないと著者は警鐘を鳴らす。
今回の経験を検証し、改めるべきことは改め、次なる危機に備える必要がある。本書にはその教訓と提言が込められている。
(扶桑社刊、1760円)