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ブックレビュー

「日本、遥かなり―エルトゥールルの『奇跡』と邦人救出の『迷走』」 門田 隆将著


 日常生活で国家を意識することのない私たちは、昨夏のカブール陥落で淡い夢から叩き起こされた。本書はイラン、イラク、イエメン、リビアで発生した戦争や政変に巻き込まれた日本人の過酷な境遇を丹念に追いながら、国家とは何かを強く読者に問いかける渾身のノンフィクションである。

 著者は、自国民の安全を確保出来ない政府に対して痛烈な批判を浴びせる。しかし本質的には、戦後繁栄を謳歌する中で自国民を救出する意志さえも無くしてしまった、日本人に対する憤怒である。

 「在留邦人の命は“地球より重い”どころか、“鳥の羽根より軽い”」。政府が法的な制約で手足を縛られていることは確かだが、人間の盾として置き去りにされる国民の側から見れば、救出の可否は命に関わる切実な問題だ。

 中東で起きたことが、在留邦人が遙かに多い台湾や朝鮮半島で発生したら…。米国の軍用機にしがみつき決死の脱出を試みるアフガンの民を見ながら、誰もが同じ悪夢を想像したはずだ。備えなくして憂いありでは、もはや国家としての責任放棄である。

 (PHP研究所刊、1870円)

小林武史(国会議員秘書)

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