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ブックレビュー

「南シナ海問題の構図 ――中越紛争から多国間対立へ」 庄司 智孝著

 著者は防衛研究所地域研究部アジア・アフリカ研究室長で、東南アジアの安全保障の専門家。今回が初の単著となる。

 南シナ海問題の「主役」として、ベトナム、フィリピン、ASEAN(東南アジア諸国連合)に視点を置き、国際政治の焦点となった危機の構造を解明。

 これら三つの主要アクターが「南シナ海問題の構図の形成と変化に相応の影響力を持ち、米中に比肩しうる重要な役割を果たしてきた」として、大国間関係の中で見過ごされた紛争の力学を浮かび上がらせ、その行方を新たな視点で展望する。

 著者は南シナ海問題について「日本の海洋安全保障にも関連している」と指摘。一方で、海洋と中国をめぐる問題で日本側に見られがちな「ベトナムやフィリピンは日本と同じ立場にあるため、日本と両国は共に中国に対抗すべし」という単純な見方についてはこれを排除した上で、冷徹な眼で対中関係を含めた両国の安全保障の複雑さと柔軟性をつまびらかにする。

 著者の研究の集大成にして我が国の政策決定に資する貴重な学術書だ。

 (名古屋大学出版会刊、5940円)

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