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ブックレビュー

「『船の食事の歴史物語』 丸木舟、ガレー船、戦艦から豪華客船まで」 サイモン・スポルディング著、 大間知 知子訳

 古代の丸木舟から最新の潜水艦まで、船乗りたちは海の上で何を食べてきたのか。海事史家で船乗りでもある著者が“船の食”を焦点に、有史以来続いてきた人と海との関係を探った本だ。

 一般に海の歴史といえば、海戦、海難事故、造船史などが取り上げられるが、本書はそうした側面にはあまり触れず、むしろ商船内の食器棚や、巡洋艦「オリンピア号」の製氷機、ビザンチン時代の厨房の構造などにスポットを当てる。船が大型化するのに伴い、食材の貯蔵や調理に影響を与えていく過程が丁寧に解き明かされる。

 また著者は、船が他の地域へ寄港することによって、陸地の食事にも影響を与えてきたことを指摘。例えばバイキングがアイスランドで見つけた干し魚は、中世ヨーロッパに広がり庶民の食事になった。さらに冷蔵技術の発達で、果物や氷がどこででも手に入るようになった。航海のグローバル化で、世界の食卓が大きく変化していったことが分かる。

 巻末では19世紀イギリス蒸気船の「マドラス風カレーライス」など、食事のレシピも紹介。「食」をテーマに据えることで、海の歴史に新たな視点を与える一冊だ。

 (原書房、2200円)

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