創刊70年を迎える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
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ブックレビュー

「サイバースパイが日本を破壊する」井上久男著

 岸田新政権の発足により担当大臣が置かれたことで、一部関係者の間で議論されてきた「経済安全保障」が新政権の看板政策に急浮上した。しかし、国民の理解は十分ではない。政界、官界、学界の一部による専門的な議論から一歩距離を置いた本書は、経済ジャーナリストの著者が実例や最新の動向などを踏まえて平易な言葉で解説する。

 防衛関係者が議論するいわゆる安全保障とは異なり、経済安全保障は非軍事領域で展開される情報戦だ。想定する主敵は「軍民融合」で各国の政治経済中枢に浸食を図る中国共産党であり、それを著者は孫子の兵法を引用して現代版「戦わずして勝つ」に例える。例えば、人民解放軍との繋がりが囁かれる中国IT大手テンセントが楽天に出資した事例などを取り上げ、その手口と日本企業の脇の甘さを指摘する。そして日本企業はもはや被害者として、加害者に責任転嫁できる時代ではないことも強調する。

 自民党は昨年末に経済安全保障戦略策定に向けて提言を出しており、その中心人物が現在の岸田総裁や甘利前幹事長である。新政権の看板政策が実は昨年から周到に準備されてきた内容の延長線上にあることは大変興味深い。

(ビジネス社刊、1650円)

小林武史(国会議員秘書)

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