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ブックレビュー

「コロナと闘った男」 ―感染対策最前線の舞台裏 惟村徹著

  2020年2月、新型コロナの集団感染が発生した大型客船「ダイヤモンド・プリンセス号」に災害派遣された現場で、自衛隊が一人の感染者も出さずに任務を完遂したことが大きな話題となった。実はこの現場で、一民間企業の「特殊清掃員」として参加していたのが著者である。

 現場での自衛隊の活動と比較して、感染症の脅威に対する認識がその他関係者の間であまりにも希薄であることが誰の目にも明らかになった。著者もまた船内で活動した時、他省庁から派遣されたスタッフの中にスーツを着たまま救援作業に当たろうとする者がいて、驚愕したという。その年の夏、日本武道館で開催された戦没者追悼式で特殊清掃業務を請け負った際も、主催者との事前打ち合わせで消毒作業への認識の差が表面化している。

 一般にはほとんど知られていない特殊清掃の世界だが、現場は常に感染症と隣り合わせだという。死体から滲(にじ)み出る体液や血液、害虫、害獣など病原菌の元は現場の至る所に散らばっている。特殊清掃を単なる「誰もやらない汚い仕事」から、自治体も自衛隊も対応できない緊急時に必須の「社会インフラ」へと定着させたいとの著者の想いが文中の隅々から伝わってくる作品だ。

(幻冬舎刊、1650円)小林武史(国会議員秘書)

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