時の焦点<海外> イランの経済
- 5月13日
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深い死のスパイラルに
米・イスラエルが2月28日に対イラン戦争を開始してから、約2カ月半。米海軍によるイラン港湾に対する海上封鎖と相まって、イランは重大な危機に陥っている。
米の制裁の影響ですでに崩壊状態だった経済情勢はさらに悪化し、通貨イランリアルは4月29日に1ドル=181万リアルと過去最安値まで下落した。今戦争中に外貨需要が積み上がり、停戦合意後に外貨が買われている。
米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は4月29日、イラン経済の現状を“死のスパイラル”と評し、「国民は自国経済が死のスパイラルにはまった痛みをもろに感じている」と伝えた。確かに、経済の暴落は目を覆うほどで、ウィーン国際経済研究所のマーディ・ゴドシ研究員は同紙に「もはや生活は不可能。イランの現状はもっとも弱い状態にある」と語っている。
同氏の指摘通りで、「戦争開始以来、100万人以上が職を失った。製造業、小売業、鉄鋼や輸入原材料に依存する業種は全て、全土でビジネスは閉鎖された。エレクトロニクスは供給が乏しく、購入できない。食糧や医療品は一般家庭には手が届かなくなった。市民はこのような困難を過去数十年、経験しなかった」(同紙)という。
政府の対策は、賃金引き上げ、補助金支給、現金給付など。金銭で“時間稼ぎ”をしているわけだが、その「時間」が急速になくなりつつあるのが現実ではないか。
経済だけでなく、同国の現体制も分裂・解体状態にあるようだ。最高指導者ハメネイ師は戦争初日に殺害された。息子のモジタバ師も負傷した上、後継者になったものの、もう何週間もMIA(行方不明)で公に姿を現さない。
宗教的権威を体現する指導者、重要決定の調停に当たる人物が不在では、革命防衛隊司令官同士の激しい対立、抗争が長引くのは必至である。
そして、モジタバ師は名目だけの指導者だという認識が広まるにつれ、体制の正統性がさらに陰ってくるのは避けられまい。これはエリート層、一般国民の間に共通した受け止めだ。
政府はもちろん、いつでも治安部隊を動員できる。戦争開始直後の一瞬、現体制からの解放、自由への希望の光を見た市民のデモに革命防衛隊が発砲し、約4000人を殺害した。度重なる一般市民の虐殺は国民の憤激を一層深め、この手法による現状維持はいずれ不可能になるだろう。
米政府が予期しているのはこの「限界点」の到達だ。両国の交渉が長引いている間にも、イランは悲惨な経済状況下で結局は崩壊すると、米当局者は確信している。
問題は、イランが一大転換点に近づいているかどうかではなく、現体制がどれだけその事実を認めずにいられるか。同国にとって、一か八かの“待機戦術”の面もある。
草野 徹(外交評論家)







