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時の焦点<海外>
G7、対中露で結束誇示
広島サミット
日本が議長国を務めた広島市での主要7カ国首脳会議(G7サミット)は、討議の成果を盛り込んだ首脳声明を発表し、ウクライナへの軍事侵攻を続けるロシアや、海洋進出など覇権主義的な動きを加速させる中国に対し、G7首脳が結束して対処していくとする一致したメッセージを打ち出すことができた。
G7サミット開会に先立って、岸田文雄首相が原爆ドームのある平和記念公園で各国首脳を出迎え、その後、平和記念資料館をそろって視察。首脳らは被爆地で開くサミットで、「核兵器のない世界」の実現に向けて取り組む姿勢をアピールした形だ。岸田首相は、被爆地から「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」と題した文書を出すなど、主要議題の一つに位置付けた核軍縮・不拡散で力強い発信をすることでも一定の成果を上げた。
岸田首相は広島サミットに先立つ記者会見で、「国際社会が歴史の転換点を迎える中で、これまでの外交成果をサミットでの議論の糧にし、G7の結束、新興国・途上国のグローバルサウスとの連携強化につなげる」と抱負を語っていた。サミット閉幕に当たって出された首脳声明などの成果文書は、議長を務めた首相が世界規模の諸課題解決に向けて掲げた当初の目標、狙いをほぼ達成したことを示している。
4月に長野県軽井沢町で開かれたG7外相会合の共同声明は、ロシアに即時、無条件のウクライナ撤退を要求するとともに、対ロ制裁強化やウクライナ支援の継続を明記した。国際法と国連憲章への重大な違反を続けるロシアのプーチン政権には政策転換の動きが見通せない中、G7の首脳も外相会合で合意した方針をサミットの場で改めて確認し、「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序」の堅持を訴えた。
ウクライナのゼレンスキー大統領も急きょ来日して対面で参加し、G7との連帯と強固な絆を世界に向けて強く印象づけた。G7首脳は焦点となっていた第三国によるロシアへの武器支援や制裁回避・迂回の防止体制強化に向け、G7が主導的に取り組むことで一致。さらに、ウクライナ支援を強化することでも合意し、首脳声明は「ウクライナへの支援は揺るがない」と明記し、ゼレンスキー政権を全面的に支える姿勢を強調した。
中国の覇権主義への対応策も協議されたが、台湾海峡の平和と安定の重要性が共有され、G7の結束をアピール。また、東シナ海や南シナ海における中国の強引な海洋進出を念頭に、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を堅持する重要性を確認した。
サミットではインドや韓国など八つの招待国が加わる拡大会合も開かれ、食料危機や気候変動といったグローバルサウスの国々の関心が高い課題について支援する姿勢を打ち出し、ロシアや中国が揺さぶる国際秩序の堅持に向けた連携もアピールした。ただ、サミットで打ち出されたG7としての諸課題解決に向けた決意やグローバルサウスとの連携強化は実効性が問われるだけに、今後の一致した取り組みが極めて重要となろう。
伊藤 努(外交評論家)
(2023年5月25日付『朝雲』より)