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時の焦点<国内>

連帯と支援を鮮明にした

首相キーウ訪問

 先進7カ国(G7)の議長国がウクライナに足を運び、揺るぎない連帯を伝えた意義は大きい。G7が結束し、国際秩序の回復に力を尽くしていくことが重要だ。

 岸田首相がウクライナの首都キーウを電撃訪問し、ゼレンスキー大統領と会談した。ロシアによる侵略を非難し、ウクライナへの支援を継続する考えを伝えた。

 日本の首相が戦闘下の国・地域を訪れるのは戦後初めてだ。G7首脳で最後となったものの、首相のキーウ訪問が実現したことは評価したい。

 首相は会談で、5月に広島市で開くG7サミットにオンラインで参加するよう要請し、ゼレンスキー氏は快諾した。首相は「広島サミットで、法の支配に基づく国際秩序を守り抜く決意を示したい」と強調した。

 G7はウクライナ支援で中心的な役割を担っている。金融などの対露経済制裁の実効性を高めるため、議長国の日本が議論を主導しなければならない。「グローバル・サウス」と呼ばれる新興国や途上国に働きかけ、支援の輪を国際社会に広げることも大切だ。

 両首脳は共同声明で、「力による領土の取得など一方的な試みは正当化され得ない」と明記し、ロシアに即時かつ無条件の撤退を求めた。

 国際法の順守や主権、領土の一体性といった国際秩序が軽んじられてはならない。将来アジアで起こりうる不当な侵略行為を防ぐためにも、武力で他国を従わせようとする試みに対して、国際社会が一致してノーを突き付けることが不可欠だ。

 首相はウクライナに対し、殺傷能力のない装備品3000万ドル(約40億円)分を供与することを表明した。エネルギー分野などで4億7000万ドル(約600億円)の無償支援も伝えた。日本の支援総額は、計76億ドル(約1兆円)となる。

 日本は防衛装備移転3原則の運用指針などにより、殺傷能力のある装備品は提供できない。軍事支援が中心となっている米欧に比べ、制約があるのはやむを得ない。民生分野を中心とした、日本ならではの支援を着実に続けることが大切だ。

 首相は首脳会談に先立ち、多数の民間人が虐殺されたキーウ近郊のブチャを視察した。

 惨状を目の当たりにして、自由と平和の価値、それを守り抜く責任を改めて感じる機会となったはずだ。首相は訪問で得た経験を国内外に力強く発信してほしい。

 今回の訪問は、機動的な外交に立ちはだかる壁も浮き彫りにした。

 首相や閣僚が国会開会中に外国を訪問するには、国会の事前了承を得るのが慣例となっている。今回は与野党が柔軟に対応したが、国会による過度な制約で支障が生じているのであれば残念だ。

 国際情勢は目まぐるしく変化し、首脳外交の重みは一段と増している。戦略的外交を進めるうえでどのような国内対応が必要か、政府は課題を整理してみてはどうか。

藤原志郎(政治評論家)

(2023年3月30日付『朝雲』より)

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