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時の焦点<海外>

米当局の危険なリーク

ウクライナ支援

 簡単に秘密を漏らすおしゃべりというのは確かにいる。しかし、そうした“口軽の主”が「情報機関の当局者」だとなると、事の重大性の桁(けた)が違ってくる。

 ウクライナ情勢に関して5月初め、米国が提供する広範な情報のおかげで、ウクライナがロシアに最大級の勝利を収めている事実を示す詳細なリークが相次いだ。

 「ニューヨーク・タイムズ」紙は4日、「米の情報がウクライナによるロシア将軍の殺害を支援―当局者言明」との見出しで報道。

 記事によると、米情報機関はウクライナ軍にロシア部隊に関する情報を提供し、ウクライナは米の支援のおかげで多数のロシア軍将軍を殺害した。

 ロシアも少なくとも12人の将軍が戦死したことを認めていて、第二次世界大戦で死亡した将軍の数より多いという。

 翌5日には、NBCニューズ(「米の情報、ウクライナのロシア軍艦攻撃の成功に貢献」)や「ワシントン・ポスト」紙(「ロシア軍艦攻撃の成功は、米情報の成果」)など複数のメディアが伝えた。

 4月14日に黒海で沈没したロシア黒海艦隊の旗艦、巡洋艦「モスクワ」について、ウクライナによる同艦攻撃の成功の陰には米国の情報力があったという内容だ。

 ウクライナ軍が米国に、オデーサ南方を航行中の軍艦の情報を求めると、米側は「それは『モスクワ』だ」と回答した上、正確な位置特定にも協力。

 その結果、ウクライナ軍は対艦ミサイル2発で攻撃に成功したが、「モスクワ」は戦闘中に沈没したロシアの軍艦としては、第二次大戦以来、最大の軍艦という。

 各メディアが記事で引用しているのは、すべて「米情報当局者」「この攻撃に精通した人々」など。

 ホワイトハウスで国家安保の情報にアクセスできる人物が、不人気の大統領を何とか良く見せようとしたとの説もあるが、ホワイトハウスは否定。第一、「良く見えた」かどうか。

 欧州のある政府高官は英BBCに「こうした情報のリークは愚かで、不必要。まるで米国が、ウクライナの人々が実行したことを自分の手柄にしようとしているようだ」と語った。

 多くのベトナム戦争秘史によると、少数のロシア人パイロットと対空砲手が米軍を直接攻撃した。しかし、旧ソ連は米軍機パイロットを何人殺したかなどと、大っぴらに自慢しなかった。またベトナム機のパイロットと対空砲手が「白人」そっくりでも、米軍はほとんど気付かないふりをした。

 事実を公にすれば、地域紛争が世界大戦にエスカレートするリスクをともに承知していたからで、米国は代理戦争でウクライナを支援できるが、超大国には越えてはならない一線がある。

 リークに忙しい当局者は、軍事より政治好きのタイプみたいだが、第三次世界大戦でも始める気なのか?

 草野 徹(外交評論家)

(2022年5月19日付『朝雲』より)

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