創刊70年を迎える『朝雲』は自衛隊の活動、安全保障問題全般を伝える
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時の焦点<国内>
負担減と抑止力両立を
沖縄復帰50年
苦難の歴史に思いをはせながら、新しい時代を切り開いていかなければならない。復帰半世紀の節目に、国民一人一人が沖縄の過去と未来を改めて考えたい。
沖縄の日本復帰から50年を迎えた。沖縄と東京の2会場を中継で結んで記念式典が行われ、天皇、皇后両陛下は皇居からオンラインで参加された。政府主催の式典が2会場で行われたのは、1972年5月15日の復帰当日以来である。
天皇陛下のお言葉でも、岸田首相と玉城デニー知事の式辞でも、沖縄が先の大戦で悲惨な地上戦の舞台となったことが触れられた。
太平洋戦争末期、沖縄では住民を巻き込んだ激しい戦闘が行われ、軍民あわせて20万人余りが亡くなったのである。
「沖縄県民斯ク戦ヘリ 県民ニ対シ後世特別ノ御高配ヲ賜ランコトヲ」
海軍の沖縄方面根拠地隊司令官として45年6月に戦死した大田實中将は、そう綴った電報を軍中央に送った。
日本が今日享受する平和と繁栄は、こうした尊い犠牲のうえに成り立っていることを忘れてはなるまい。
とりわけ沖縄は、戦後も27年にわたって米国に統治され、土地の強制収用も行われた。高度成長にわいた本土とは大きく異なる。
首相が式典で「沖縄の潜在力を最大限に引き出し、『強い沖縄経済』を実現する」と強調したのは、復帰から50年を経てもなお本土との経済的な格差が残る現状を打開しようという決意の表れであろう。
豊かな自然と独自の文化を有し、コロナ禍前まで観光産業は順調に発展してきた。
だが、島とあって輸送コストが高く、地域経済を安定的に支える製造業は成長できなかった。
観光業だけに頼る経済は不安定で、1人あたりの県民所得は低く、子供の貧困率も高い。
「強い沖縄経済」の実現に向けて、政府が力を入れているのは、デジタル関連など高度な科学技術を活用する産業の創出である。国と県が一体となって、沖縄が自立的に発展できるよう知恵を絞ってもらいたい。
沖縄には、在日米軍専用施設の7割が集中している。事件・事故の危険性や騒音に対し、県民が強い不満を抱えるのは当然だろう。
首相は、米軍キャンプ瑞慶覧の一部区域について、返還前に公園として県民に開放する方針を表明した。
今後も着実に基地負担の軽減に取り組んでいく必要がある。
「世界一危険」とされる米軍普天間飛行場の移設を進展させるため、国と県の対立に終止符を打つことが不可欠だ。
中国の軍備増強に加え、ウクライナ危機によって安全保障への関心は高まっている。基地負担を軽減しながら、日米同盟の抑止力を維持する。困難な課題に正面から取り組むことが我々に課せられた責務である。
宮原 三郎(政治評論家)
(2022年5月19日付『朝雲』より)