強い言葉で語るよりも
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時の焦点<国内>
強い言葉で語るよりも
首相と人質事件
こんな理不尽なことが許されるのか。怒りを静めることがなかなかできない。
過激派組織「イスラム国」は、人質にしていた邦人2人を殺害したと表明した。
脅迫映像を動画サイトに何回も投稿した。人質の後藤健二さんを映像に登場させ、自分たちの要求を読み上げさせた。力を誇示し、国際社会の恐怖心をあおるのが目的だったのだろう。最初から、人質解放の交渉をする気などなかったのではないか。
野党の一部からは、安倍首相の責任論が出ている。イスラム国対策の2億ドルの拠出表明が、過激派を刺激し、テロを招いたという理屈だ。
だが、相手は狂信的な犯罪者集団である。道理や常識も通じない。憎むべきは、イスラム国であり、首相を責めるのは筋が違う。
後藤さんの殺害映像が流れたのは、2月1日の日曜日。午前5時頃のことだ。
直ちに報告を受けた首相は、メッセージを発した。
「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせる」
政府関係者によると、首相自らの意志で「償わせる」と原稿に付け加えたのだという。
空爆など軍事的な措置を意味するのかと、思わせるほどの激しい言葉である。
その後、首相は発言の真意について「時間がかかろうとも国際社会と連携して犯人を追いつめ、法の裁きにかけるとの強い決意を表明したものだ」と説明した。
テロリストは、「アベ」と呼びかけ、首相を挑発した。首相の激しい憤りは、理解できる。
ただ、これから首相に求められるのは、「強い言葉」で、国民を鼓舞することではあるまい。
冷静沈着に、今やるべきことを着実にやる、ということである。
まず、日本の中東政策を国民に丁寧に説明し、理解を広げることだ。
イスラム国は、イラクやシリアの混乱に乗じて、勢力圏を拡大していること。貧困に苦しんだり、疎外感を抱く若者らが、過激思想に染まり、戦闘員としてイスラム国に合流していること。
インターネットを通じてテロが国境を超えて拡散していること。その封じ込めには、国際社会が連携して対処するしかないこと。そして、経済大国の日本は、国際平和の恩恵を享受していること。
首相自ら、繰り返し国民に語りかけることが大切だ。
安倍政権が中東地域の安定や民生向上のため、医療や保健などの分野でどんな貢献をしているのか。具体的に説明することも欠かせない。
テロに巻き込まれないように、在留邦人の安全確保策も講じたい。日本国内でテロが起きないように、重要施設の警備なども怠ってはならない。
危機に立ち向かう首相として、今こそ指導力を発揮してもらいたい。
風間 二郎(政治評論家)
朝雲新聞社の本
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