時の焦点 <国内>2008/8/21付
財政再建よりも衆院選
南風 太郎(政治評論家)

景気対策の大合唱
 政府・与党が、景気対策の補正予算編成に動き出した。
 衆院解散・総選挙の前に、大型の経済対策を打ち上げるのは、政権党の常とう手段だ。
 小泉政権の財政再建路線下で、こうした手法は鳴りを潜めていたが、ここへ来て、景気がすでに後退局面に入ったことがはっきりした。衆院選に政権転落の危機感を抱いている与党は、久しぶりに大手を振って、景気対策を大合唱している。
 政府が最近発表した統計によると、4〜6月期の国内総生産(GDP)の実質成長率は、年率換算の前期比でマイナス2・4%で、1年ぶりにマイナス成長になった。
 原因は、まず、これまで景気を支えてきた輸出が減少した。サブプライムローン問題で米国経済が失速したためだ。自動車や鉄鋼、非鉄金属などの落ち込みが大きい。
 一方、内需の柱である個人消費も、2年ぶりに減少に転じた。
 原油や食物の輸入価格の高騰で、国内でも食品や日用品の値上がりが続き、家計は消費を手控えているのだ。
 原材料の高騰で、企業利益も圧縮された。設備投資は減少し、労働者の賃金も上がらない。
 輸出も、内需も、持ち直す展望がない。しばらくは低成長が続きそうな気配である。
 さて、そこで、「景気対策」となるのだが、具体的に何を打ち出すかとなると難しい。
 そもそも、原因は、米国経済の変調や、世界的な要因による資源・食料の高騰である。日本が単独で抜本的対策を施すことは不可能だ。
 できるとすれば、原材料高騰を製品価格に転嫁できない中小企業への金融支援や、漁民や農民への燃料代補助など、急激なショックを和らげる対症療法が中心になる。
 このほか、政府の検討メニューには、産業構造の転換を促す支援や、省エネ・新エネルギー促進なども並んでいるが、いずれも即効性はない。
 衆院選が視野に入っている与党は、景気対策が迫力不足となり、臨時国会で野党に追及される事態は避けたい。
 公明党は、各世帯への“ばらまき”ともいえる所得税の定額減税を要求し、自民党の麻生幹事長も株式配当の非課税化を提唱し始めた。地方対策を重視する自民党の保利政調会長は、公共事業追加を含めた大型の補正予算編成に言及している。
 補正予算の財源は、災害などの支出に備えて計上されている08年度予算の予備費(残り3349億円)の一部と、07年度予算の余りである剰余金(6319億円)などが想定されている。
 だが、1兆円規模の大型補正予算となれば、赤字国債の追加発行を余儀なくされそうだ。
 資源価格急騰による負担緩和は必要だが、財政再建の歯止めをはずしてまで大盤振る舞いするのはどうか。有権者の目には、どう映るだろう。

時の焦点 <海外>2008/8/21付
過剰な軍事作戦に批判
伊藤 努(外交評論家)

露のグルジア侵攻
 北京五輪開会中に南カフカスのグルジアで突如火を噴いた戦火は、欧州連合(EU)の調停で停戦と和平交渉の糸口が見つかったとはいえ、グルジアからの分離・独立を目指す南オセチア自治州とアブハジア自治共和国の将来の地位について、グルジア、ロシアの対立は解けておらず、武力衝突がいつ再燃してもおかしくない緊迫した情勢が続いている。
 当初、事態を座視したブッシュ米政権もここにきて、親米のグルジアに対して米軍による人道支援に乗り出したほか、両地域の分離・独立派を後押しするロシアの「過剰な軍事介入」「停戦違反」への非難のトーンを強めており、米露関係の先行きに暗雲が漂ってきた。
 「平和の祭典」である五輪開幕直後のグルジアによる電撃作戦は、同国の領土保全を侵害するロシアの「非」を国際社会に広く知らしめると同時に、南オセチアなど両地域の民族紛争の「国際化」を図ることにより、問題解決の主導権を握ることにあった。しかし、この目論見は、プーチン首相(前大統領)が陣頭指揮を執ったロシア側の予想を上回る断固とした反撃で両地域の支配権を失う事態を招き、大きな誤算となった。
 紛争激化を懸念する欧州諸国の調停で何とか停戦合意にこぎつけ、軍事的敗北による求心力の低下を免れたグルジアのサーカシビリ政権だが、侵攻したロシア軍は治安維持などを名目にグルジア領内での居座りを続けており、厳しい状況下にあることに変わりはない。唯一の成果は、旧ソ連という特別な枠内に置かれてきた南オセチアなど両地域の紛争が今回の軍事衝突後にできた和平の基本原則により、国連やEUが関与する国際会議の場で取り上げられる可能性が出てきたことで、そうなればグルジアにとって前進となる。
 一方のロシアは軍事的に勝利したとはいえ、過剰な軍事力行使に対する批判の集中砲火を浴び、国際社会での孤立を招いた。旧ソ連とロシアの専門家として知られるライス米国務長官は、主要国首脳会議(G8)からのロシア締め出しなどをにおわせた。今回の対グルジア軍事作戦は「主権国家への侵攻であり、21世紀には認められない」(ブッシュ大統領声明)というわけで、ロシアはG8の資格に欠けるという論理だ。
 中国のチベットや新疆ウイグルでくすぶる民族摩擦や、旧ソ連を継承したロシア各地での民族・宗教紛争は、冷戦時代にほぼ封印されていた支配民族への怨念噴出という形で強権的な中央政府の足元を揺さぶっているように見える。中国、ロシアという「現代の帝国」の維持・運営コストは、対外関係およびイメージ悪化の代償と合わせ、高くつく。