時の焦点 <国内>2008/8/7付
ぬかるみ続く政権前途
南風 太郎(政治評論家)

福田改造内閣発足
 陣形は刷新したが、勝機はなお見えない。
 福田首相の置かれている状況を客観的に俯瞰すれば、そんなところではないか。
 内閣改造・自民党役員人事のキーワードは、否が応でも迫ってくる「衆院選対策」であり、それに向けた「挙党態勢」の確立であった。
 その象徴が、国民から人気が高い麻生太郎氏を、自民党幹事長に再び据えたことだ。
 麻生氏を、選挙に向けた自民党の「顔」として利用しつつ、自陣営に取り込むことで、与党内にくすぶっている「福田降ろし」の動きを当面、沈静化させる。それが麻生人事の本質である。
 そこには当然、福田内閣の支持率低迷にしびれを切らしている公明党をなだめすかす狙いも込められている。
 あわよくば衆院選の前の政権禅譲を、と期待して幹事長を引き受けた麻生氏だが、相変わらず脇は甘い。最後は撤回したが、受諾の条件に、福田政権発足の際に新設した選対委員長(古賀誠氏)ポストを党4役から格下げすることなどを求めた。
 これで、当の古賀氏はもちろん、青木前参院議員会長や森元首相にまたしても不評を買った。
 麻生氏は、幹事長だった昨年も安倍前首相の退陣にあたって立ち回りに失敗した。気づいたときは、党内各派閥の大勢は福田支持で固まり、総裁選で苦杯をなめた。
 首相は麻生氏に気を持たせたのだろうが、実際にすんなり禅譲となる保証など、どこにもない。
 保利耕輔・元農相を政調会長に、野田聖子・元郵政相を消費者相に、それぞれ登用した人事も意味深長だ。
 両氏は、郵政民営化に反対し、小泉政権下の郵政解散の際は、自民党を離党して「刺客」の小泉チルドレンと死闘を演じた。当選後しばらくして復党した。
 保利氏は農政や文部行政に通じ、野田氏も党の立場から消費者行政に熱心に取り組んでいた。とはいえ、両氏の登用には、郵政解散が自民党地方組織に残した亀裂の修復を印象づけ、郵政票を取り戻そうという選挙対策の匂いが濃い。
 新体制発足後の世論調査は、麻生氏の幹事長起用や、国民の関心が高い拉致問題担当相に中山恭子氏を抜てきした人事などが耳目を集め、内閣支持率はおおむね上昇した。だが、目に見える実績を上げなければ、ご祝儀相場などそうそう続くものでもない。
 首相は、改造内閣発足の談話で「私として大きな改革の方針を打ち出すことができた」「私の考える国民本位の行財政改革が動き始めた」と強調したが、国民にそんな実感はないだろう。首相の言葉は、相変わらず空回りしている印象だ。
 前を見れば相変わらずの衆参ねじれ国会。おまけに足元の自公関係までぎくしゃくしている。
 福田政権、どこまで続くぬかるみぞ……。

時の焦点 <海外>2008/8/7付
更なるイスラム化に釘
小倉 春樹(外交評論家)

トルコの政教分離
 イスラムの大国トルコを揺るがした政治危機にようやく幕が引かれた。7月31日の憲法裁判所の判決で、政権与党の公正発展党(AKP)は違憲を理由とする解党を免れた。
 しかし、11人の裁判官のうち6人が違憲と判断し、あと1人が賛成すれば解党命令の要件を満たすところだった。しかも憲法裁は同じ判決で、AKPへの政党助成金を削減する制裁措置を下している。エルドアン首相らAKP幹部は「民主主義は守られた」と主張したものの、皮一枚で首がつながった辛勝である。
 憲法裁はなぜ「痛み分け」の判決を下したのか。AKPは昨年7月の繰り上げ総選挙で47%の得票を挙げて単独過半数を制し、続く大統領選でも勝っている。そのAKPに解党を命じれば、議会は解散に追い込まれ国政が混乱する。憲法裁は同党を支持した国民の猛反発を受けかねない。
 そこで間をとって、「党の存続は認めるが、助成金削減でさらなるイスラム化にクギを刺す」というのが、憲法裁の発したメッセージであろう。1票という僅差で解党要求を退けたところにも巧みな演出臭があり、トルコの国情を反映した政治的判断といってよい。
 トルコの国政運営の大原則は政治と宗教の厳格な分離である。この世俗主義は建国の父ケマル・アタテュルクが定めた憲法に明記されている。ケマル主義の擁護者を自認する軍はイスラム化阻止を理由に何度かクーデターを起こしており、憲法裁や検察も政教分離の目付役となっている。
 違憲訴訟を招くきっかけとなったのは、宗教絡みの法改正である。AKPは大学での女子学生のスカーフ着用を解禁する法案を提出した。野党は「公の場でのスカーフ着用を認めるのは政教分離に反する」と反対したが、与党が数で押し切り、今年2月に改正法が成立した。翌3月、検察がAKPを憲法違反で訴え、解党とエルドアン首相ら党幹部71人の5年間政治活動禁止を求めた。
 首相らは「AKPが進めているのは個人の自由を拡大する民主化のための改革」と主張した。トルコが加盟を申請している欧州連合(EU)も、「選挙で勝った政党を司法が解体するのは民主主義に反する」と牽制した。
 だが、AKP幹部の多くが2001年に解党命令を受けたイスラム政党の美徳党に属していたこともあって、軍や検察に限らず、イスタンブールなど都市住民の間ではAKPに対する警戒心が根強い。他方、経済発展の遅れた東部アナトリア地方では農民を中心にAKP支持が強く、今回の騒ぎには国内の地域格差が影を落としている。
 現政権のもとで世俗主義と宗教上の自主選択を共存させ得るか。EU加盟交渉とからみ、トルコ政治の今後の展開は広くイスラム圏に影響を及ぼさずにはすむまい。