時の焦点 <国内>2008/7/17付
「無投票」めぐる綱引き
平木 公二(政治評論家)

民主党代表選の行方
 民主党代表選(9月21日投票)は、次期衆院選での政権交代を訴える小沢代表の3選が確実視される中、焦点は「無投票当選」か、「複数候補による選挙戦」か、に絞られてきている。
 民主党の鳩山幹事長は7月8日、NTT労組の定期大会で、「党内には小沢代表のほかにも優れた代表候補がたくさんいる。(投票資格がある)党員・サポーターを落胆させないよう、民主党が政権を取ったらこういう政策を実現するというメッセージをうたいあげたい」と述べ、複数の候補が代表選に出馬すべきだとの考えを示した。
 これに対し、平田健二参院幹事長は同日の会見で、「スムーズに無投票で当選が決まり、衆院選に向けて総力を挙げるのが一番いい」とし、同じ小沢支持の立場ながら、無投票当選を支持した。
 勝敗が見えているのに代表選を実施するメリットはどこにあるのか。
 第一に、一般論から言えば、複数候補が政策を戦わせることで国民に党の存在をアピールするとともに、党組織を活性化し、党員・サポーターの参加意識も得られる。
 第二に、対抗馬やその支援者から見れば、次の代表選への足がかりを得るとともに、発言権を得て重要ポストをうかがうこともできる。今回は次期衆院選後に民主党政権が誕生する場合だけでなく、政界再編をにらんでポジションを得る狙いもあるだろう。
 その意味で注目されるのが次期衆院選後は勝っても負けても小沢氏とはやや距離を置きたい、と考えている岡田、前原両副代表、野田佳彦広報委員長、仙谷由人・元政調会長らの動きだ。
 前原氏は、月刊「中央公論」7月号で自民党の与謝野馨前官房長官と対談し、「仮にこのまま民主党が政権を取っても、まともな政権運営はできない」と述べ、農家への戸別所得補償や道路特定財源の暫定税率の廃止などに抜本的見直しが必要だと強調した。
 だが、前原氏もその後は岡田、野田両氏らとともに沈黙を守っている。
 一方、選挙戦のデメリットは何か。
 第一に、候補同士で相手方の個人攻撃に走り、党内に亀裂やしこりが生じる恐れがある。
 第二に、小沢陣営から見れば、政策論争が起きれば、口下手の小沢氏が防戦に追われかねない。小沢氏の昨年の参院選の政策には「ばらまきという気持ちが強い」(前原氏)との批判もある。年金問題など社会保障政策には財源の裏打ちがないことも論戦で明らかになってしまう。
 これらは、ひっくり返せば、無投票のメリットにほかならない。
 小沢氏の戦略は、次期衆院選までは自分を露出させず、党内の政策論争を封印することにある。鳩山発言も実は結果的に無投票に持ち込むための煙幕だ。執行部として無投票を誘導する発言を避けているにすぎない。
 「反小沢」の対抗馬は現れないのだろうか。

時の焦点 <海外>2008/7/17付
世界的課題へ限界露呈
伊藤 努(外交評論家)

洞爺湖サミット終了
 北海道・洞爺湖サミットは、地球温暖化対策をはじめ、食糧・原油の高騰、金融市場の混乱への対応が主要テーマとなり、久しぶりに「経済サミット」に回帰した。しかし、いずれの問題も複雑に絡み合い、かつ地球規模での解決を要する難題とあって、主要8カ国(G8)の先進国だけでは対処できず、その限界も浮き彫りになった。サミット最終日に行われた中国やインドなど新興国を交えた初の主要排出国会議首脳会合の行方に関心が集まるなど、G8自体の地盤低下とサミットの在り方が今後の課題として残された。
 限界と言えば、近年のサミットで重要課題として取り上げられてきた温暖化対策をめぐる討議がG8の現状をよく物語る。これまで温暖化対策に消極的だったブッシュ米大統領を含むG8首脳は、2050年までに世界の温室効果ガスを半減するとした長期目標について「世界全体の目標として求める」との点で何とか合意にこぎつけた。議長を務めた福田康夫首相の粘り強い根回しが奏功したと指摘されている。しかし、この合意は問題解決への一歩とはいえ、国際社会を動かす力強さには欠ける。案の定、自国の経済成長への影響を懸念する中印両国は「まず先進国が削減努力を強化すべきだ」との主張を繰り返し、合意に縛られることを拒否した。
 巨額の投機マネーが食糧や原油市場に流れ、価格高騰を招いている問題でも、G8は有効な対策を打ち出せなかった。投機マネーとはいえ、規制に乗り出せば、自由主義経済の原則に反するとの判断が背景にある。このため、G8として、懸念を示し、需給バランスの改善を表明する程度にとどまり、投機の規制を強く迫るアフリカ首脳との溝は埋まらなかった。アフリカなどの途上国では、一連の食糧・原油高騰で深刻な打撃を受けており、世界経済や生活に直結する問題でさえ解決の処方箋を書くことができないG8に対する不満、苛立ちは想像に難くない。
 こうした思いは、日本がホストの今サミットを見詰めていたわれわれ多くの国民も一様に抱いたのではないか。今回は、アフリカの有力国や中印など途上国の首脳も参加したため、これら国々の記者やNGO関係者が多数取材に駆けつけたが、先進国よりも途上国の記者や関係者の方がサミットに厳しい評価を下していたのが印象的だ。
 国際社会が取り組むべき課題は今後、一段とグローバル化し、途上国を含めた多国間の政策協調が急務となる。取り上げられたテーマといい、参加国の数といい、洞爺湖サミットはそうした時代の到来を予感させたが、せっかくまとめた合意や宣言に実効性が伴わなければ、年に1度の儀礼的な外交イベントに堕してしまいかねない。