時の焦点 <国内>2008/7/10付
戦略描けない総裁派閥
南風 太郎(政治評論家)

首相退陣の可能性
 政局の匂いをかぐと黙ってはいられない性分なのだろう。
 自民党の小泉元首相が、7月3日の講演で、福田首相の政局運営を巡り、こんな注文をつけた。
 「福田首相の手で衆院を解散するのか、別の人がするのかが、政界の最大の関心事だ」
 「『追い込まれ解散』になる前に、できるだけ有利な時期を選んで解散する。首相は、そういうものだ」
 衆院議員の任期満了は来年9月だ。遅くとも1年余りの間に、天下分け目の衆院選がある。
 だが、自民党内は、人気のない福田首相の下では衆院選は戦えない、という声がもっぱらだ。
 それでも、「福田降ろし」の動きが起きないのは、自民党議員が自信を無くし、選挙恐怖症に陥っているからである。
 自らの落選、さらには自民党下野の可能性すらある衆院選は、できるだけ先延ばしにしたい、という、逃避願望だ。
 その結果、「福田首相ならば、小泉氏のように党の意向を無視して衆院解散を強行したりしないだろう」という奇妙な安心感が、福田降ろしを押しとどめている。
 とはいえ、大半の議員は、口には出さないものの、衆院選直前に、福田首相が自発的に退陣することを期待している。
 人材難の自民党で、後継首相にうわさされているのは、「選挙の顔」として国民受けしそうな麻生太郎前幹事長らだ。
 そんな中、公明党の神崎武法・前代表が2日の講演で「内閣支持率次第で首相退陣の可能性がある」と発言、政界に波紋を広げた。誰もが思っていることを、公然と口にしたからである。
 要するに、福田首相は与党内からも、なめられているのだ。
 冒頭の小泉氏の講演発言は、こうした与党内のムードをけん制し、かつての自分のように決然と政局運営の主導権を握れ、と福田首相を鼓舞したものだろう。
 小泉氏は最後に、こう付け加えた。
 「自分の手で解散するなら、自分は何のために総理になったのか、使命感と情熱、国民にはっきり共感を持たれているようなものを打ち出してやるのが一番望ましい」
 最近、永田町や霞が関で、首相の出身派閥である町村派幹部への不満が募っている。「首相の意を受けて戦略を描き、根回しに汗をかく役割なのに、言っていることがばらばらで、総裁派閥の体をなしていない」(古賀派幹部)というものだ。
 主流派であり続けるために、いざとなれば、麻生氏へのスイッチも視野にあるとみられる森元首相。麻生氏と折り合いが悪く、首相の下で自らの改革路線を実現させようとかき回す中川元幹事長。政策も政局も、相変わらず勘所が悪い、とされる町村官房長官……。
 派閥幹部のあまりの頼りなさに、小泉氏は、歯がゆくて仕方がないのかもしれない。

時の焦点 <海外>2008/7/10付
支援参加へ強まる圧力
吉田 健一(外交評論家)

正念場の拉致問題
 北朝鮮が核開発の申告書を提出したことを受け、米ブッシュ政権は北朝鮮のテロ支援国指定解除を議会に通告した。6カ国協議で合意した「完全で正確な核申告」とはほど遠い内容で解除通告に踏み切ったのは、残り任期が半年余りとなり、何としても外交成果を挙げようとしたブッシュ政権の焦りの表れだ。日本では拉致問題解決の後ろ盾を失うとの動揺が広がっており、拉致問題解決に向け日本政府は正念場を迎えている。
 テロ支援国指定解除は、よほどのことがない限り8月11日にも発効する見通しだ。北朝鮮にとって、解除されてすぐに実利が舞い込むわけではない。北朝鮮が欲する国際金融機関からの融資を実現するには、まず世界銀行やアジア開発銀行のメンバーにならねばならないが、北朝鮮がその準備を進めている気配はない。ただ、米国の敵視政策の象徴であるテロ支援国指定の解除は米朝接近を意味し、日本にはボディーブローのようにじわじわと効いてくるだろう。
 近く開催される見通しの6カ国協議でも、日本は苦しい立場に立たされそうだ。ウラン濃縮やシリアとの核協力疑惑などが抜け落ち、プルトニウム関連中心の不完全なものではあるが、申告書が提出された以上、米国は速やかに「次の段階」である核施設廃棄へと駒を進めたい。
 そのためには「行動対行動」の原則により、参加国は北朝鮮へのエネルギー支援などの義務を履行しなければならない。日本は拉致問題の進展なしでのエネルギー支援には参加しない方針を貫いているが、北朝鮮が核申告に踏み切ったことで、日本の支援参加への圧力は強まりそうだ。北朝鮮も「合意に賛成しながらもその履行への参加を拒否している国がある」(外務省スポークスマン)と揺さぶりをかけてきている。日本は近く、非常に難しい判断を迫られる。
 テロ支援国指定解除手続きが始まったことで、北朝鮮は日朝協議で合意した拉致被害者の再調査を棚上げする恐れも出てきた。ただ、日本は再調査を急ぐ必要はない。北朝鮮が拉致被害者の状況を知らないはずがなく、再調査は茶番劇に過ぎない。さらに言えば、北朝鮮にとっての再調査とは、拉致問題を今のままで終止符を打つためのものであるから、日本は安易に乗るべきではない。
 任期切れが迫るブッシュ政権は、プルトニウムの放棄に的を絞り、外交成果を挙げようとしているようだ。しかし、北朝鮮も軽水炉の建設などの見返りを求めてくるだろう。プルトニウムだけでも廃棄までには5年はかかるとみられ、次期政権への持ち越しは必至。北朝鮮核問題は長期戦だ。日本は、核とともに拉致問題を解決する意志を持ち続けられるかが問われる。