時の焦点 <国内>2008/7/3付
首相、政局主導できず
平木 公二(政治評論家)

消費税上げ先送り
 福田首相は6月23日、通常国会閉幕に伴って記者会見し、消費税率の引き上げについて、「2、3年とか長い単位で考えている」と述べ、今年12月の税制改革で、09年度からの引き上げを先送りせざるを得ない、との考えを明らかにした。
 首相は「社会保障国民会議も(議論)しているし、(行政の)『無駄ゼロ』の取り組みもしている。そういう成果を見つつ取り組んでいく。景気がどうなるかも無視し得ない問題だ。総合的に考えるが、もう少し先の段階だ」と説明した。
 首相は17日、G8各国通信社とのインタビューで、消費税率引き上げについて、「決断の時期」と発言、新聞各紙は1面トップで報じた。首相が衆院解散の時期を探り、政局の主導権を握ろうとしているとの見方が出る一方、自民党内で中川秀直・元幹事長ら「上げ潮派」より与謝野馨・前官房長官ら「財政再建派」に軸足があるのが明確になったとも評された。
 今回の会見では、首相は消費税率引き上げについて、「方向性はそういうことだ」としながら、後ろ向きに軌道修正を図った、とみられる。
 首相が慎重になった背景には、原油や穀物の高騰の中で、インフレ懸念に注意を払う必要があるとの判断がある。
 実際、政府は、6月の月例経済報告で景気の基調判断を3か月ぶりに下方修正。4〜6月期の法人企業景気予測調査でも大企業の景況感は2期連続で過去最低を更新している。こうした経済状況で消費税率の引き上げ論議が高まれば、景気の足を引っ張りかねない、と観測されている。
 27日に閣議決定された政府の「経済財政改革の基本方針(骨太の方針)08」でも、消費税を含む税制抜本改革については「早期に実現を図る」との表現にとどまった。前年の骨太の方針は「07年度をめどに取り組む」と目標年度を記したが、その表現は消えている。
 今後の焦点は、消費税率アップにどう道筋を付け、09年度に空く財政の穴をどう埋めるのか、という問題に移る。
 年金改革関連法では09年度に基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1へ引き上げることが決まっている。消費税1%に当たる2・3兆円の歳出をどう捻出するのか。歳出削減に限界がある以上、赤字国債発行、特別会計(埋蔵金)の取り崩しなどで財源を確保しなくてはならない。
 政局への影響も少なくない。首相が09年度の消費税率引き上げを見送るなら、衆院の年内解散の必要はなくなる。ねじれ国会が今のままでは消費税率を引き上げる法案が参院で賛成を得られることはない。消費税法案が成立するには、次期衆院選後の大連立を含む政界再編が必要だからだ。
 衆院解散と消費税と政界再編が3点セットとすれば、解散時期は内閣支持率低迷に伴い、ズルズルと後退する。首相は、政局運営の責任から逃れようとしている。

時の焦点 <海外>2008/7/3付
楽観できぬ北の非核化
小倉 春樹(外交評論家)

米朝ポーカーゲーム
 約束より半年遅れの核計画申告書提出と芝居がかった寧辺の冷却塔爆破。その見返りの褒賞として差し出したテロ支援国家指定の解除通告と対敵国通商法の適用除外。ワシントンと平壤で交わされた外交ゲームは、「北の非核化」に向けた一歩とはいえるだろう。だが、幾多の問題を積み残した後味の悪さが否めず、「より平和な世界につながる」(ニューヨーク・タイムズ紙)とまで評価する気にはなれない。
 北が無能力化するのは老朽化した寧辺の核施設だけだし、申告書に盛られたのは過去に抽出したプルトニウムの量やその使用目的などに限られる。保有する核兵器の正確な情報と今後の取り扱い、兵器目的のウラン濃縮疑惑、シリアの核開発への協力などの諸問題は未解決のままで、昨年2月の6カ国協議で約束した「完全かつ正確な核申告」とはほど遠い内容というほかない。もちろん、日本を射程に収めたミサイルの脅威も残っている。
 また、拉致被害者の家族にすれば、あれほど同情の念を強調してみせたブッシュ大統領に裏切られたという思いを抑え切れないだろう。「核と拉致の平行前進」という日本政府の路線は、北の核無力化を優先する米の国家意思の前に無力だったといってよい。
 ブッシュ大統領にとって、今回の歩み寄りは対北朝鮮政策の大きな転換といえる。大統領は北を「悪の枢軸」の一環と呼び、クリントン前政権時代の枠組合意を反古にし、平壤の孤立化を図った。そのかたくなな姿勢を改め、北との妥協を図るよう説き伏せたのはライス国務長官とヒル国務次官補だった。現在も政権内にはチェイニー副大統領ら強硬派と国務省グループとの険しい対立があるが、「任期内に外交上の成果を挙げておきたい」という大統領の意向が強く働いて、今回の妥協が成ったのが真相のようだ。
 とはいえ、大統領も国務長官も今後を楽観しているわけではない。申告書を厳しく吟味し、北の完全非核化をめざすと言明している。だが、「金正日は自分をブッシュに認めさせた」とドイツの有力誌シュピーゲル(電子版)が評したように、一連のポーカーゲームで勝ちを収めたのが北という印象は否めない。寧辺の老朽施設と引き換えにテロ国家指定を解除させたことで、のどから手が出るほど欲しい世界銀行融資や外資呼び込みの道が開ける。黒鉛減速炉に代わる軽水炉の提供や石油・食糧支援の増加も求めてくるだろう。そうした要求を満たすため核のカードは捨てないであろうから、北の「完全な非核化」が長くて困難な道程であることは今後も変わるまい。
 少なくとも6発の弾頭分に相当する37キログラム(米推定)のプルトニウムとミサイルを持ち、したたかこのうえない北朝鮮を相手に、日本は拉致問題の解決と国交正常化交渉をどう進めるか。米の次期政権発足前に、外交戦略をじっくり練り直す必要があるだろう。