時の焦点 <国内>2008/6/19付
格好だけの政局カード
平木 公二(政治評論家)

色褪せた問責決議
 首相問責決議がこれほど「軽い」ものになってしまったとは……。民主党の罪も「重い」と言わざるを得ない。
 通常国会は6月21日、一部条約の処理のため、6日間の会期延長の末に閉幕する。その間際の11日に民主党など野党が首相問責決議案を可決したが、福田首相は問責を無視し、内閣総辞職にも衆院解散にも応じなかったため、民主党の審議拒否のまま幕切れを迎える。
 昨年7月の参院選で与党が大敗し、衆参ねじれ国会となって11カ月。その間、首相問責決議の政治的意味と効果は激変したと言っていい。
 昨年8月の安倍改造内閣発足直後、遠藤武彦農相(当時)の補助金不正受給問題が発覚。この時は民主党の鳩山幹事長が問責決議案提出を記者団にちらつかせただけで、農相は辞任した。まるで民主党に閣僚の人事権が移動したかのようだった。
 額賀福志郎防衛庁長官が98年に問責決議された国会混乱の責任を取って辞任したことが与野党幹部の脳裏をよぎっただろう。その後は問責決議案が政局の焦点になる。
 昨年秋の臨時国会では海自のインド洋での給油を再開する新テロ対策特別措置法案を、与党が衆院で3分の2の多数で再可決すれば、参院に問責決議案が提出され、福田首相が衆院解散に追い込まれる、との観測が高まった。公明党は一時、解散を恐れ、再議決に反対したほどだった。
 これに対し、自民党は「首相問責決議は憲法に規定がない。可決されても法的拘束力がないのだから、無視すればいい」と理論武装し、公明党を説得し、新テロ法は再可決で成立した。
 問責決議は無視する、という与党のこの対処方針は、今年の通常国会でさらに「進化」した。
 民主党は首相問責決議案提出のタイミングを税制関連法案の再議決に合わせていた。政府・与党がガソリン税の暫定税率を復活させたら、世論の風をバックに問責決議案を提出する腹だった。
 だが、首相問責決議は首相を参院の議場に立ち入らせないという意思表示にほかならない。会期末まで「審議拒否」することになってしまう。
 それでいいのか  。与党は、民主党に態度を迫った。民主党は世論の反発を恐れてその覚悟ができず、問責決議案提出の判断自体を6月15日の会期末直前に先送りせざるを得なかった。
 今回の提出は「後期高齢者医療制度廃止法案の今国会の成立を強く迫ったが、与党は拒絶した」(民主党・鳩山幹事長)のが理由だという。議員立法が成立しないから、首相問責決議というのは筋が通らない。とにかく首相にNOを突きつけねばならないという党内事情があったのだろう。
 共産党の市田書記局長は「国民に格好だけ示そうとしている」と民主党を批判し、党首討論の中止にも異議を唱えた。
 野党の足並みも乱れ、「問責カード」は色褪せてしまった。

時の焦点 <海外>2008/6/19付
世界注視の米国の選択
伊藤 努(外交評論家)

オバマ対マケイン
 米大統領選挙の民主党候補指名レースは、バラク・オバマ(46)、ヒラリー・クリントン(60)両上院議員の歴史に残る激しいつばぜり合いの末、オバマ氏が勝利を手にした。米政治史上、黒人政治家が2大政党の大統領候補に選ばれるのは初めてで、超大国・米国に黒人大統領が誕生するのも夢ではなくなった。
 11月の本選挙では、一足先に共和党候補に内定したジョン・マケイン上院議員(71)と対決するが、2期8年に及ぶブッシュ共和党政権の後を継ぐのは若手のオバマ氏か、それともベトナム戦争の英雄とされる高齢のマケイン氏か。米有権者の選択は、2009年以降の米政治の針路のみならず、世界の各地域にも大きな影響を与える。
 中央政界では無名に近かったオバマ氏の民主党候補指名獲得は、イラク戦争の泥沼化やサブプライム問題の影響による景気減速などで自信を失いかけた多くの米国民、あるいは閉塞感が漂う米政治に清新な風を吹き込むのは氏をおいてほかにいないという期待が後押ししたようだ。
 やや図式的とはいえ、クリントン前大統領時代の敏腕ファーストレディーとして「経験」「実績」を訴えるヒラリー女史に対し、「変革」のメッセージを発し続けたオバマ氏は演説の巧みさで白人支持層にも食い込み、黒人という出自のマイナス面をある程度打ち消すことに成功した。米国初の女性大統領の座を目指したヒラリー女史が「女性差別」の厚い壁に押しつぶされたのとは対照的で、そうした面でも両氏は最後に明暗を分けた。
 ホワイトハウス奪還を目指すオバマ氏にとって、今回の勝利は長いレースの一里塚にすぎない。ヒラリー女史との壮絶な候補指名争いで深まった民主党内の亀裂をいかに修復し、共和党候補に対抗する挙党体制を築くことができるのか。テロとの戦いをはじめ、イラクやアフガニスタンなどに戦線を抱える「準戦時下」にあって、公約に掲げる米軍のイラク撤退に道筋をつけるのは容易な仕事ではない。大統領ポストを争うマケイン氏は海軍出身で、上院議員として長く安全保障・軍事問題に携わってきたその道のプロだ。
 外交、軍事、経済、通商、環境……。いずれの分野でも米政府の施策は、同盟国の日本など諸外国に大きな影響を与えずにはおかない。民主党の指名レースでは内外の具体的政策に踏み込むことが少なかったオバマ氏が、政治の表裏に通じた現実主義者のマケイン氏にどのような論戦を挑むのか。本選でペアを組む副大統領候補の人選もさることながら、まだ彗星のような存在の「政治家オバマ」の実像と経綸が、米有権者の支持をどこまで引き寄せるかのカギを握ることになろう。