時の焦点 <国内>2008/6/12付
知事は現実的な対応を
南風 太郎(政治評論家)

遅れる普天間の移設
 日米同盟の信頼を守るために、米海兵隊普天間飛行場(宜野湾市)のキャンプ・シュワブ沿岸部(名護市)への移設は確実に実現しなければならない。
 6月8日の沖縄県議選で、仲井真弘多知事を支える自民、公明両党などの県政与党が過半数を失った。
 民主、社民などの野党は、後期高齢者医療制度の廃止を前面に押し出し、お年寄りが多く、所得水準の低い沖縄県民の不満をすくい上げることに成功した。その分、基地問題は大きな争点にはならなかった。
 野党は、普天間飛行場の県内移設に反対している。仲井間知事は、野党主導の県議会を相手に難しい県政運営を迫られることになる。
 しかし、知事には、沖縄全体の基地負担を軽減して県土振興を図る、という大局を見据えて、移設実現に調整力を発揮してもらいたい。
 日米両政府が合意した、沖縄の米軍再編計画は一つのパッケージだ。
 2014年を目標としている普天間飛行場の移設完了が頓挫すれば、海兵隊8000人のグアム移転や嘉手納基地以南の6施設・区域の返還もずれ込んでいく。
 日米両政府は06年5月、シュワブ沿岸部に滑走路をV字型に配置する代替施設を建設することで合意した。仲井間知事はその後の同年11月の知事選で、騒音などを理由に代替施設をさらに沖合に移すことを公約に掲げて当選した。現在も首相官邸と水面下で調整を続けている。
 だが、米政府は修正には一貫して否定的だ。
 米軍の不満を抑え込んで合意をまとめたのに、修正協議を始めたら、米軍から滑走路の延伸要望などが再び噴出しかねないからだ。
 日本政府や沖縄県への積もり積もった不信もある。苦労して修正しても、国内調整ができなかったり、選挙が近づいたりすると、日本側はまた別の条件を持ち出してくるのではないか、と疑われているのだ。
 シュワブ沿岸部の環境影響評価調査は、今年3月、予定より1年近く遅れて始まった。政府が知事に対し、周辺海域の埋め立て許可を申請する時期は、09年末以降にずれ込みそうだ。
 10年1月には名護市長選、同11月には知事選が予定されている。時間がたてば、選挙が目の前に迫り、知事や名護市長が移設について重要な決断を下すのは難しくなる。
 政府は、代替施設の政府案について、県や地元市町村との合意を早く形成する必要がある。座して死を待つような愚を繰り返すべきではない。
 米政府の内諾も得ずに、政府案修正に応じるような姿勢を見せることは厳に慎むべきだ。沖縄に過大な期待を抱かせるだけでなく、米国の信頼を再び損ねることになる。
 知事も、政府案の修正の公約に縛られず、移設の実現に向け、現実的な対応を模索してほしい。

時の焦点 <海外>2008/6/12付
周囲はまだ盧武鉉時代
吉田 健一(外交評論家)

韓国の牛肉輸入問題
 韓国が大変だ。米国産牛肉の輸入再開問題で、李明博大統領への国民の不満が爆発し、歯止めが掛からなくなっている。しかし、就任時は80%以上あった李大統領の支持率が、牛肉問題というシングル・イシューで、10%台にまで急落してしまったのはなぜだろうか。
 昨年10月、米国産牛肉から特定危険部位である脊柱が見つかり、韓国は検疫を停止し、米国からの牛肉輸入はストップした。対米関係を重んじる李大統領は今年4月の訪米の際、牛肉の輸入再開を決断したが、決定が早急だったこともあり、BSE(牛海綿状脳症)に対する不安が国民の間で急速に広がった。ソウル中心部では連日、大規模な抗議集会が開かれている。
 このあおりを受け、今月4日の自治体首長選で与党ハンナラ党は1勝5敗と惨敗。青瓦台(大統領府)の大統領室長を含む首席秘書官計8人が辞意を表明するなど、李政権は早くも大きな困難に直面している。
 牛肉問題で国民の不満が爆発した背景には2月に李大統領が就任した後も、物価上昇や景気低迷が好転しないことへの失望感もある。また、李氏の大統領としての資質不足を指摘する声も出ている。
 大企業のCEO(最高経営責任者)時代と同様、李氏は政権運営もワンマン型で進めている。牛肉問題でもそうだが、国民への説明が足りない。ソウル在住のジャーナリストは、国民と別世界に住んでいるような印象を与える点が、安倍晋三前首相の場合と似ていると分析した。
 もう一つ、韓国では大統領が代わると、官公庁だけでなく大手企業やメディアも幹部に大統領に近い人物を充てる傾向がある。ただ、テレビ局などではいまだ盧武鉉政権時代からの幹部が力を握っており、李政権に辛口の報道をしている。各界幹部の交代が済めば、李政権も落ち着きを取り戻すとの見方もある。
 しかし、半年前に自分たちで選んだ大統領を掌を返したように貶める韓国人の精神構造も理解に苦しむ。筆者が5月下旬にソウルを訪れた際も、宿泊したホテル近くで朝方まで抗議集会が開かれていた。
 韓国の集会では定番となったキャンドル集会で、参加者は紙コップ製のかさをつけたろうそくをかざしていた。家族連れも多く、その表情には切迫感はない。コンサートも盛り込まれ、祭りのような雰囲気だった。
 多少の難点が目に付くとしても、李氏はあと5年近くは自分たちのリーダーだ。少しは盛り立ててもよさそうなものだが。ここで簡単にレームダック(死に体)にしてしまっては、結局は自分たちの首を絞めることになりはしないかと心配してしまう。