時の焦点 <国内>2008/6/5付
未だに見えない着地点
平木 公二(政治評論家)

防衛省改革の行方
 背広組にも制服組にも「五百旗頭詣で」が絶えない。石破防衛相が主導する防衛省の組織改革に少しでも歯止めを掛けてほしいとの一存からだ。
 五百旗頭防大校長が防衛省改革会議(座長・南直哉東電顧問)メンバーだからだけではない。福田首相の信任が厚い五百旗頭氏の影響力を頼んでのことだ。それだけ石破氏の組織改革案が内局や陸海空の自衛隊に不評なことを意味した。
 その防衛省の組織改革案が5月21日、鳴り物入りで首相官邸での防衛省改革会議に示された。内局と幕僚監部の主要業務を政策企画立案・発信、運用、整備の三つの機能別に、統合・再編し、背広・制服組の混合組織化を図るのが主眼だ。内局の幹部が防衛相を補佐する防衛参事官制度を廃止し、政治任用の防衛相補佐官を新設することも盛り込まれている。
 防衛省案と言っても、石破氏が指名した内局の審議官や自衛官の将補ら15人による改革推進チームが3か月で作成したもので、石破氏の持論がほぼ反映されている。
 具体的には、内局の運用企画局を廃止し、自衛隊の統合幕僚監部に併合し、トップを統合幕僚長とする。内局と陸海空の幕僚監部の防衛力整備部門も一本化する。3幕僚監部は縮小する。3幕僚長は指揮命令系統から外し、防衛相の専門的助言者と位置づけている。
 背広組は、制服組の権限強化と捉え、文官優位の象徴とされる防衛参事官制度の廃止と相まって国会による「文民統制」が弱まるのではないか、などと懸念を示す。
 制服組にも不満が充満している。3幕僚監部の縮小は「1軍化」につながる。3幕僚長が組織のトップでないと、統率や士気にかかわる。統合幕僚長が局長級に格下げになる  などなどだ。
 並行して自民党防衛省改革小委員会(浜田靖一委員長)が4月24日に改革案を示したが、組織統合を内局、統幕の二つにとどめ、幕僚長をトップとする各自衛隊の組織は維持するとし、石破案と一線を画している。
 ここで露呈したのは、津島派のニューリーダーながら「説得の技術」に乏しい石破氏、その石破氏の問題提起を正面から受け止める力量がなかった内局官僚、組織文化に動きを絡め取られた各幕僚監部という虚しい対立構造ではないのか。
 「石破さんの顔は立てないといけないが、石破案じゃだめだ」
 首相から事態打開を図るよう求められた五百旗頭氏は、同じ5月21日の防衛省改革会議に、内局と統合・陸海空幕僚監部の枠組みを温存しつつ、基本的に制服組を背広組の下に組み入れることで混合組織化を図るという私案を提出した。
 今後、議論の本流は五百旗頭案に移行するだろう。石破氏がどう巻き返すのか。だが、こうした組織いじりの議論よりも背広・制服組の大幅な人事交流を先行させることが、不祥事再発防止にも有効なのではないか。

時の焦点 <海外>2008/6/5付
大手企業自ら違法調査
小倉 春樹(外交評論家)

独の通信記録侵害
 情報通信の欧州最大手ドイツ・テレコムが、自社の経営情報の漏洩源を突きとめるために幹部社員や経済ジャーナリストの通話記録をひそかに調べていたことが明らかになった。通信の秘密を通信企業自らが侵害した重大事件として連邦検察局が捜査に着手し、5月末にボンにある本社の家宅捜索を行った。同社の大株主である政府も監督責任を問われることになろう。
 事件は有力誌シュピーゲルの報道で明るみに出た。同誌によると、通話記録の違法な調査が行われたのは2005年から2006年にかけての1年半。当時、ドイツ・テレコムは業績悪化で株価が下落し、人員整理など経営の立て直しに取り組んでいた。ところが、取締役会や監査役会の議事内容など内部情報がしばしば経済紙やビジネス誌に漏れ、大きく報じられた。
 これに業を煮やしたリッケ社長とツムウィンケル監査役会長(いずれも当時)がベルリンのコンサルタント会社を使って漏洩源調査に乗り出し、取締役や監査役会のメンバー及び経済記者の電話の通話記録を調べあげた。調査対象は加入電話と携帯電話を合わせ数十万通話にのぼるという。
 ドイツ・テレコムのオーベルマン現社長はシュピーゲルの報道を大筋で認め、検察の捜査に全面協力すると言明した。ただし、社長は「違法調査の対象となったのは電話の接続記録だけであり、通話の盗聴は行っていない」と述べた。
 ドイツの情報通信企業は電話やパソコン通信の接続記録を蓄積しているが、そのデータを料金計算以外の目的に用いるのは禁じられている。司法機関はテロなど重大犯罪の捜査に限って電話や電子メールの盗聴ができるが、憲法裁判所は今年3月の判決でそうした捜査目的の通信傍受にも厳しい条件を付した。
 違法調査を主導したと報じられるツムウィンケル氏は、民営化したドイツ郵便の社長だった。ところが今年2月、リヒテンシュタインに個人資産を隠し巨額の脱税をしていた容疑で強制捜査を受け、社長を辞任したばかり。そうした人物が経営のお目付役である監査役会の会長を務め通信の秘密を侵害していたことは、大きな反響を呼び起こしている。
 ドイツ情報保護委員会のシャール委員長は「事件の全容を徹底的に解明して個人情報侵害の責任を厳しく追及するとともに、被害者全員に結果を報告すべきだ」と注文を付けた。また、野党・自民党のオットー議員は連邦議会で同社の主要株主である政府の監督責任を追及する方針を明らかにした。
 さらに、記者が調査対象となったドイツ語版フィナンシャル・タイムズ紙などは、事件は個人情報のみならず報道の自由の侵害でもあるとして、刑事・民事両面から告訴することを検討している。