時の焦点 <国内>2008/5/22付
福田首相の三つの願い
平木 公二(政治評論家)

内閣支持率の急落
 福田内閣の支持率が一気に急落している。時事通信社の5月の世論調査は、危機的状況といえる19・9%(4月から7・7ポイント減少)を記録し、なお反転上昇の兆しがうかがえない。
 不支持は62・8%にも達し、その理由は「期待が持てない」「リーダーシップがない」「政策が駄目」が上位を占めた。後期高齢者(長寿)医療制度への不評に加え、ガソリン税などの暫定税率を復活する税制関連法案の衆院再可決が影響したとみられる。
 首相は4月の衆院山口2区補選遊説で、道路特定財源の一般財源化などを念頭に「今進んでいる静かなる革命はやがて分かる」と強調したが、政府の広報戦略の拙劣さは否めない。
 しかし、内閣支持率が落ちても、自民党内には「福田降ろし」の動きも気配もない。「ねじれ国会」によって、首相が思う通りに政権運営できない以上、誰がやっても似たようなものだ、という空気になっている。
 首相も、精神的にタフで、ケロッとしている。常に政策のペーパーを持ち歩き、首相官邸を訪れる与党幹部や官僚らと議論を重ねている。公明党の太田代表が「福田ドクトリンを出したら」と持ち掛けても、「そういうのは好きじゃないんだ」などとマイペースも守ってきている。
 その首相がここに来てどうしても自分で手がけたいことが3つある。それは「洞爺湖サミット、衆院解散、そして首相在任期間が1年以上、安倍前首相より1日でも長くということだ」(自民党幹事長経験者)。
 首相の戦略は、今年の秋にどういう態勢を取るかに重きが置かれる。6月15日までの通常国会は会期延長せずに閉じ、野党からの追及を逃れる。7月7日からの洞爺湖サミットを主催し、その後に内閣を改造し、自前の内閣を作る  というのが秋の臨時国会を迎えるに当たってのシナリオの基本線になるだろう。
 問題は、衆院解散の時期だ。その時の自民党支持率が民主党支持率を上回っていればという条件付きだが、秋の臨時国会での解散の目はある。自民党内には「内閣改造で政権が浮揚するかも知れない」(閣僚経験者)と期待する向きもある。
 党内の一部には、支持率が低迷するなら、9月の民主党代表選に合わせて福田首相が退陣、総裁選を実施し、新首相で早期解散、という憶測もある。だが、首相を降ろす政治的手段はない。
 解散は、消費税率論議とも絡む。09年度から基礎年金の国庫負担分が3分の1から2分の1に引き上げられるため、07年暮れには消費税率の引き上げ幅をめぐる政治決断も迫られる。与党内ではその前の秋に解散した方が得策だという声が上がる一方、解散と消費税率引き上げをともに先送りした方がいいという思惑も語られる。
 首相が念願する「サミット、1年越え、解散」は成就するのだろうか。

時の焦点 <海外>2008/5/22付
ミャンマーと中国の差
伊藤 努(外交評論家)

未曾有の自然災害
 5月に入って大型サイクロンがミャンマー(ビルマ)南西部を直撃し、日を置かずに大規模地震が中国四川省を襲い、ともに数万あるいは十数万規模の死者・行方不明者が出る大災害となった。凄惨を極める被災地の様子を伝える報道を見るにつけ、自然の猛威の恐ろしさを改めて実感するが、両国の災害に共通するのは「人災」という側面だ。
 また、ミャンマーのケースで顕著だが、一刻を争う被災者救援のための人的援助を厳しく制限し、疫病の拡大やそれに伴う犠牲者のさらなる増大など二次的災害を招いている点もなぜか似ている。一方は軍事政権、他方は共産党一党支配。両国の国家体制の在り方が結局のところ、災害時の救援受け入れという人道的問題での国際社会の常識とあまりに懸け離れた対応を取らせたことと密接に関係していると言えよう。
 十数年前、取材で何度かミャンマーを訪れた。アウン・サン・スー・チーさんはヤンゴンの自宅で軟禁下に置かれ、民主化勢力はほぼ完全に封じ込まれた時期となっていたが、それでも入国ビザの発給は極めて厳しかった。今回のサイクロン被害で救援活動に向かおうとした国際機関のスタッフに当局からビザが発給されず、隣国タイのバンコクで足止めを食っているというニュースに接し、軍事政権が何を恐れているのかがよく分かる。端的に言えば、権力の維持しか眼中にない軍政当局の支配の実態を国際社会には「見せたくない」「隠したい」という政治的思惑があるだけである。人道という言葉はない。
 現地での取材を通じ、ビルマ人の庶民の多くは敬虔な仏教徒で、人間的なやさしさを持ち合わせていることを知っているだけに、そうした国民を恐怖政治で支配し、自らは権力側の甘い汁を吸って安穏と暮らす軍政幹部から末端組織に連なる人間が同じ民族であることに「権力の腐敗」を感じざるを得ない。
 ミャンマー軍事政権と比べれば、かぎカッコ付きとはいえ、中国指導部の対応は「国際標準」に少しは近い。中国の公式メディアが震災被害の状況や被災者の苦境といった客観報道ではなく、現地視察に訪れた温家宝首相らの一挙手一投足や武装警察の救援活動ぶりに焦点を当てていたのは、メディアが体制側の宣伝機関にすぎないお国柄では仕方ないにせよ、遅ればせながらであれ、日本など海外の人的援助を受け入れたのは評価できる。
 中国の国威発揚と繁栄ぶりを内外に誇示する格好の舞台になると思われた北京五輪の直前に起きた四川大地震。庶民が住む家屋や学校が軒並み倒壊し、犠牲者を増やした被災地の様子は、図らずも発展の影の部分を映し出したが、国際社会は中国には同情を惜しまないと同時に、五輪成功に向けても協力の手を差し伸べるのではないか。