時の焦点 <国内>2008/5/15付
政局にかまけ責務放棄
南風 太郎(政治評論家)

店ざらし憲法調査会
 立法府の怠慢、ここに極まれり、の感がある。
 衆参両院に設置された憲法審査会が、委員も決まらないまま、ずっと放置されている。党勢維持のために護憲の旗を降ろせない共産、社民両党だけではなく、2大政党の一翼として政権獲得を目指す民主党までが、審査会の始動に反対しているためだ。
 憲法記念日の5月3日、民主党の山岡賢次国会対策委員長は記者団に、「今そういう雰囲気ではない。内閣支持率を見ても内閣の体をなしていない。安定した環境が整った時に憲法論議は行われるべきだ」と語ったという。
 お門違いも甚だしいのではないか。目先の政局の駆け引きがどうであろうと、中長期的な視点に立って「国のかたち」を論ずることは、国会議員の責務だろう。内閣支持率とどんな関係があるというのか。
 昨年5月、憲法改正手続きを定めた国民投票法がようやく成立し、新しい憲法制定への基盤が整った。同法などに基づいて、憲法改正の発議や国民投票に関する法律などを審査する憲法審査会が、昨年8月7日の臨時国会召集日に衆参両院に設置された。
 だが、設置は形式的なもので、審査会の委員の人数や議事手続などを定める規程はいまだに制定されず、委員の選任もなされていない。
 民主党は党内に、改憲に慎重な旧社会党勢力を抱えている。野党共闘を維持するには、共産、社民両党との連携が必要だ。衆参ねじれ国会を利用して福田政権を追いつめるために、党内外の足並みを乱す憲法論議は極力先送りしたいのである。
 一方の自民党も、改憲路線を前面に掲げた安倍前政権が参院選で惨敗したショックから立ち直れないでいる。連立を組む公明党はそもそも、改憲には慎重だ。
 安倍路線に否定的な福田首相は就任後、「国民の目線」「生活が第一」と繰り返し、安倍氏が設置した集団的自衛権の行使容認に向けた有識者懇談会も、事実上、たなざらしにしている。
 それに加え、自公連立与党はねじれ国会の対応に追いまくられ、憲法論議に本腰を入れる余裕すら失っている。
 しかし、衆参のねじれが問題になっている今だからこそ、憲法審査会を始動させ、2院制はどうあるべきか、衆参両院の役割分担を見直す必要はないのか、真剣に話し合えばいいのだ。
 来年は、海上自衛隊のインド洋での給油支援継続のための新テロ対策特別措置法や、イラク復興支援特別措置法の期限切れがくる。政府・与党が自衛隊の海外派遣の恒久法論議に本気で取り組もうとするなら、集団的自衛権行使を含めた憲法9条の論議は避けられないはずである。
 ねじれ国会で、立法府の機能不全が問われて久しい。憲法論議まで放棄されては、国民の不信感は高まるばかりだ。

時の焦点 <海外>2008/5/15付
日中韓の主導権握る時
吉田 健一(外交評論家)

胡錦涛中国主席来日
 中国の胡錦濤国家主席が5月6日から10日の間、日本を訪問した。7日の福田康夫首相との会談では、地球温暖化問題など幅広い分野で「戦略的互恵関係」を進展させることを確認する日中共同声明に署名した。胡主席はまた、眼鏡と上着を外して得意の卓球を披露し、奈良では2000年以上に及ぶ日中の友好往来の歴史に触れるなど、「暖かい春の旅」を友好ムードに彩った。
 首脳会談では懸案のチベット問題、ギョーザ事件では成果は見られなかったものの、東シナ海のガス田共同開発問題では「議論に大きな進展があり」(福田首相)、日本が主張する日中中間線をまたぐ海域を開発対象とすることで大筋合意した。日中間の文書では中国国家元首が初めて署名した今回の共同声明で、両国の平和共存への決意が表明された意義も小さくない。
 両首脳は、いずれかが1年に一度互いの国を訪問する「シャトル外交」を展開することで一致。日韓が合意した今秋の日中韓首脳会議開催についても中国側が「真剣かつ積極的に検討する」考えを表明し、実現の可能性が高まった。日韓の間でも4月下旬の李明博大統領の来日でシャトル外交が復活しており、日本の東アジア外交は活発化し始めている。
 閉塞状態にあった中韓との関係が好転しつつあるのは、アジア外交を重視し相手国を刺激しない福田首相の存在もある。しかし、それ以上に大きいのは、中韓の首脳が日本との相互依存は避けられないと実感している点だろう。
 中国は8月の北京五輪を控え、チベット問題で高まる国際社会の批判を日本との友好ムードで和らげる目論見がある。急速な高度成長による公害などのひずみが広がる中、省エネや環境問題への日本の経験を取り入れたいとの思いも強い。一方、支持率低下に歯止めが掛からない韓国の李大統領も、「経済大統領」としての本領を発揮し、支持率を回復するために、貿易赤字の縮小など経済面での日本の協力を欲している。
 少し前までの日中韓の関係は、首相の靖国神社参拝や歴史教科書問題に対し、中韓が共同戦線を組んで批判し、日本は孤立していた。しかし、最近は歴史問題がクローズアップされることがなく、中韓の結束は固まらない。逆に、ソウルでの聖火リレーの際の中国人留学生の暴力事件を機に韓国の対中感情が悪化するなど両国のぎくしゃくした関係が目立っている。
 ある意味で、東アジア外交で日本が主導権を握るチャンスが訪れているとも言える。今こそアジアで最初に高度経済成長を成し遂げ、先進国入りした経験を生かし、必要な貢献をしつつも実利をも勝ち取るというしたたかな外交が求められる。