時の焦点 <国内>2008/5/8付
自民「後期高齢者」響く
平木 公二(政治評論家)

衆院補選民主勝利
 道路特定財源問題や米軍岩国基地問題を焦点にスタートを切った衆院山口2区補選(4月27日投票)の勝敗を決定づけたのは後期高齢者(長寿)医療制度だった。
 平岡 秀夫 民前
 当 116348
 山本繁太郎 自新
   94404
 自民党の完敗である。
 自民党は、古賀誠選対委員長らが企業の東京本社を回り、系列を含めて引き締めたが、効果が出なかった。山本氏が訴えた岩国空港の民間乗り入れも地元にあまり金が落ちないと見られ、地元業者が動かなかった。
 自民党は衆参両院補選で15勝3敗と圧倒的な強さを誇ってきたが、今回は「候補者の力や人柄がほとんど評価されず、風やムードに流されてしまった」(閣僚経験者)。
 これを裏付けるのが地元世論の動きだ。読売新聞の出口調査で、選挙の争点として重視した政策は「年金・医療」を挙げた人が38%でトップで、うち67%が平岡氏に投票していた。次いで「景気」が15%、「ガソリン税など道路特定財源」は14%だった。後期高齢者医療制度への不満が平岡氏支持に結びついたといえる。
 06年6月に成立した医療制度改革関連法に盛り込まれた後期高齢者医療制度の狙いは、死期が近づいたお年寄りの医療費が非常に高額なために終末期医療を抑制する仕組みを作ることにある。給付費の5割を公費から、4割を現役世代の医療保険から、1割を高齢者自身が負担する。いわゆる「姥捨て山」(鳩山民主党幹事長)ではない。
 だが、厚生労働省がその後、PRを怠ったこともあり、高齢者には「負担増につながる」「年金から天引きされるのは納得いかない」などという不満が強く、理解を得られていない。
 自民党内には「この制度は1度にがらっと変わるのではなく、国民1人1人が75歳になるたびに不快な思いをする。それが継続してしまうところに問題がある。お年寄りやその世話をしている子どもたちを敵に回してしまった」(野田毅・元自治相)との見方もある。
 福田政権初の国政選挙で敗北した以上、本来なら首相や党執行部の責任が問われるのだが、党内には「福田下ろし」につながる動きもない。
 麻生太郎・元外相を除く各派領袖がこぞって福田氏を推して生まれた政権だという理由だけではない。福田氏の力量や人気の問題ではないことは先刻承知なのである。
 一方、民主党の小沢代表にとって、日銀総裁人事などの政治手法をめぐって党内の批判を浴びた後だけに、この1勝の政治的意味は大きい。党運営の主導権を取り戻し、9月の代表選に向け、反小沢派の対抗馬擁立を牽制できるからだ。
 民主党の強硬路線は続く。与党は暫定税率を復活する税制関連法案の再可決を図り、野党は首相問責決議案の提出を検討する見通しだ。与野党攻防は当分、ガチンコ勝負にならざるを得ない。

時の焦点 <海外>2008/5/8付
ク氏撤退せず民主混迷
小倉 春樹(外交評論家)

米予備選大詰めへ
 米国は日本よりもずっと厳しい競争社会である。競争に勝ち抜く強さを備えた者のみが成功を収める。このルールは政治の世界でも貫徹される。
 民主党の大統領候補指名をめぐるオバマ氏とクリントン氏の戦いは、「史上、最も長く激しい予備選」(ニューヨーク・タイムズ紙)となった。初の女性大統領をめざすクリントン氏は撤退圧力を跳ね返し、有力州ペンシルベニアで踏ん張った。「(大統領が兼ねる)軍の最高指揮官にふさわしいのは私だ」と主張する氏の「権力への意思」の強さには、幾多の大統領選を見てきた米国の政治コラムニストたちも舌を巻く。対するオバマ氏は持ち前の知性と弁舌の才で、若い世代や中流以上の白人にも支持を広げている。
 民主党は8月下旬、共和党は9月初めに全国党大会を開いて正副大統領候補を正式指名し、11月4日の大統領本選に臨む。問題は、民主党内の指名争いがいつ決着するかである。獲得代議員数ではオバマ氏が150票近くリードしている。5月から6月にかけて残る7州と自治領の予備選が行われるが、クリントン氏の逆転は望み薄だ。それでも氏が撤退を拒否し続ければ、民主党は分裂状態のまま党大会を迎えることになる。共和党はすでにマケイン氏の勝利が確定しており、民主党のディーン全国委員長は「候補未定状態が長引けば本選で不利になる」と焦りを強めている。
 打つ手がないわけではない。予備選で得られる代議員とは別枠の特別代議員を動かすことだ。特別代議員は上下両院の連邦議員や州知事など計795人。自分の意思で候補を選べる特権を持つ。300人余の特別代議員がオバマ、クリントン両氏のいずれを支持するか、まだ決めていない。この票の行方が決まれば、指名争いにけりが着く。ディーン委員長は「6月3日の最後の予備選まで待つわけにはいかない」と、態度保留組に決断を促した。委員長の願いが実れば、保留組は5月6日のノースカロライナ、インディアナ両州予備選の結果を見て態度を決めることになろう。
 民主党には他にも心配材料がある。「塹壕戦」(英BBC放送)と評される長丁場の確執で、オバマ、クリントン両候補とも相手を容赦なくこきおろして党のイメージを損ない、マケイン氏を利する結果となっているのだ。
 いま一つの不安は、人種ファクターが本選に及ぼす影響である。ペンシルベニア州予備選で投票した民主党員の出口調査によると、本選でオバマ氏を支持すると答えた白人は69%にとどまった。逆に、クリントン氏が候補になった場合、票を入れると答えた黒人は73%だった。どちらが本選に臨んでも、大量の死票が出るおそれがある。
 公民権運動の指導者、マーティン・ルーサー・キング牧師が暗殺されて40年。人種・世代を超えた「米国の夢」をかけて、秋の本選まで長く熱い戦いが続く。