時の焦点 <国内>2007/3/8付
政権浮揚につながるか
平木 公二(政治評論家)

首相の指導力発揮
 どこか吹っ切れたのだろうか。内閣支持率の低落にどう手を打っても改善の兆しがなく、どうせなら自分のやりたいようにやらせてもらう、と安倍首相が開き直ったように見える。
 一つは、衛藤晟一・前衆院議員の復党問題だ。
 首相は、郵政民営化に反対し、05年の衆院選に無所属で出馬、落選した衛藤氏の自民党への復党を認める考えを示した。衛藤氏は復党が決定すれれば、今夏の参院比例選に党公認で出馬する。
 首相は2月23日、首相官邸で記者団に、「衛藤氏は基本的に私と同じ考え方、方向性を持っている。国造りを一緒にしていきたいという人に加わってもらうのは当然だろう」と説明した。
 突然の指導力発揮である。この論理で復党を認めるなら、昨年12月に郵政造反組の無所属議員11人の復党を認めた際、平沼赳夫・元経産相を排除する必要はなかった。首相には、支持率低下の引き金を引いた復党問題の再燃を招く恐れよりも、むしろ全員を復党させられなかった悔悟の念が強いのかも知れない。
 党内には「百害あって一利なし」「友達優先」との批判が強く、公明党は「参院選の選挙協力に重大影響を及ぼす。再考してほしい」(東順治副代表)となお反対だ。
 3月1日のフジテレビ世論調査では、衛藤氏の復党に13%が賛成、64%が反対と答えている。
 もう一つは、「河野談話」の見直し問題だ。
 首相は1日夜、いわゆる従軍慰安婦問題に関連し、1993年の河野洋平官房長官談話について「当初定義されていた強制性を裏付ける証拠がなかったのは事実だ。強制性の定義が変わったことを前提に考えなければならない」と記者団に述べて、一部見直しの必要性を否定しなかった。
 この問題は、自民党の「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」(会長〓中山成彬・元文部科学相)が河野談話見直しを求めて議論しており、首相発言と連動する可能性もある。
 河野談話の問題点は、政府の韓国現地調査で強制連行を示す客観的な証拠資料が見つからなかったにもかかわらず、軍や官憲による強制連行を認めたかのような表現になっている点だろう。
 同会が問題視しているのは、慰安婦問題をめぐって、米民主党のマイケル・ホンダ下院議員らが対日非難決議案を提出していることだ。決議案には「旧日本軍が若い女性を強制連行し、性的奴隷としていたことを公式に認め、謝罪し、歴史的責任を受け入れるべきだ」とあり、日本に対する誤解と悪意に満ちている。
 首相や周辺も、河野談話を継承するにしても、問題点だけは指摘せざるを得ないのだろう。
 首相の開き直りは政権浮揚につながるのか、単なる暴走に終わるのか。綿密な戦略の裏づけがないだけに、首相がこうした問題に自ら介入することには「危険」が伴うことを忘れてはならない。

時の焦点 <海外>2007/3/8付
対北融和へ大転換の米
西村 哲也(外交評論家)

北朝鮮外交の“勝利”
 米露の間に冷たい風が吹き始めた。一部には“ミニ冷戦”の復活を懸念する向きもある。
 関係悪化の直接のきっかけは、米国がミサイル防衛システム(MDI)拡充の一環としてポーランドとチェコに関連施設の受け入れを働きかけ、これにロシアが激しい非難を浴びせたことだ。
 米国はアラスカとカリフォルニアに弾道ミサイル発射を探知する早期警戒レーダーと迎撃ミサイルを配備し、英国内にもレーダーを設置済みである。これに加えて、チェコに早期警戒レーダー、ポーランドに迎撃ミサイルを配備する計画を立て、両国政府と折衝に入っている。その目的は「イランなどからの核ミサイル攻撃に備えるため」と説明している。
 だが、ロシアは旧ワルシャワ条約機構メンバーであったポーランド、チェコへのミサイル防衛システムの拡充を「自国への脅威」ととらえ、強く反発している。プーチン大統領は2月中旬にミュンヘンで開かれた国際安全保障シンポジウムでこの問題を取り上げ、「中東からの核攻撃への備えというのなら、地理的に近いトルコに設ければよい。東欧2国への配備は、世界規模での支配的地位を維持・確保しようとする姿勢の表れにほかならない」と、厳しい口調で米国を批判した。これを受けてバルエフスキー参謀総長も「米国が計画を強行すれば、1987年に結んだ中距離核(INF)全廃条約を廃棄してミサイルの生産・配備を再開する」と警告した。
 ロシアの強い反発の背景には、軍事技術面で米国に大きく水をあけられ、財政面でもミサイル防衛システムに対抗する力がないことへの苛立ちがある。今年、主要国サミットを主催するドイツはロシアとの関係悪化を恐れ、シュタインマイヤー外相が「モスクワの懸念を十分に配慮すべきだ」と、米国と北大西洋条約機構(NATO)にやんわり釘を刺した。
 しかし、ブッシュ政権は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)やイランなどの核開発に歯止めをかけるためにも、ミサイル防衛システムの強化・拡充を推し進める方針だ。ロシア通のライス国務長官はKGB出身のプーチン大統領に当初から不信感を抱いているといわれ、ミュンヘンで表明された激しい対米批判も無視する構えだ。マッケイン上院議員ら議会有力者もイランに原子力施設と最新型対空ミサイルを輸出するロシアに警戒と反感を強めている。
 当のポーランドとチェコは、国内にミサイル防衛システム参加への反対論を抱えながらも、両国の首相会談で「自国と欧州の安全保障のためにミサイル防衛の盾が必要」との判断で一致し、計画推進の方針を確認した。
 とはいえ、ロシアが主要国サミットの場でこの問題を改めて持ち出す公算は大きく、日本としても対応をしっかり固めておく必要があろう。