朝雲寸言2007/1/18付

正月休みに、塩野七生さんの「ローマ人の物語」の最終版「ローマ世界の終焉」を読んだ方もおられると思う。
出だしから最後まで、ローマ市民の唯一の義務は国防であること、エリートが軍務と政務の両方を経験して一人前の指導者になるローマではシビリアンコントロールの必要がないことなど、その骨太の世界観に教わるところは多い。
執筆の期間が冷戦終結からバブル崩壊を経て今日に至る長期にわたっている以上、塩野さんは、ローマ帝国の歴史に日本の国のありようを重ねていたに違いない。
世界帝国ローマの成功要因が、敗者の文化を受け入れ、ローマに同化させる寛容さにあったことは何度も強調されているが、これも、イラク戦争以後のアメリカに向けた痛烈なメッセージとして読むことができる。
今回の本の中に出てくる「少数の勝者で多数の敗者を統治する鉄則は既存の統治階級の温存だ。(敗者が絶望すれば)死にものぐるいの抵抗にあい、それを制圧するために投入する軍事行動の泥沼化しかない」というフレーズにいたっては、明らかにイラクを意識したものだと理解したい。
折しも、アメリカで出版されたイラク統治を巡る米政権の苦悶を扱った「STATE OF DENIAL」の中には、周到な統治計画を欠いた政権の誤りが描き出されている。ブッシュ政権はイラクに2万人の増派を決めたが、ローマ人の目には、どう映るだろうか。