| 時の焦点 <海外>2012/5/17付
客観的視点失わぬ台湾
荒木 俊光(外交評論家)
植民地時代を見る目
4月下旬に台湾の台北を訪れた。滞在中、馬英九総統が執務をする台湾総統府や、巨大な蒋介石像がある中正記念堂、本土から運ばれた中国王朝の貴重な文物が展示された故宮博物院など有名観光地を駆け足で見てきた。台北の新市街は超高層ビルが建ち並ぶが、旧市街や郊外には総統府をはじめ古い建築物や街並みが残っているため、レトロな雰囲気が漂っており、初めての訪問だったのにどことなく懐かしさを覚えた。
そもそも台湾総統府が日本植民地時代の総督府の建物を利用している。中に入ると、建物の成り立ちや台湾の歴史、政治の流れを学べるように展示されており、日本語ができるボランティアガイドが丁寧に教えてくれた。私自身が過去に駐在した韓国と比べて驚いたのは、植民地時代について極めて客観的で冷静な展示が行われていることだった。
ソウルにかつて存在した朝鮮総督府の建物は1990年代半ばまで残っていたが、反日的な政策を推進した金泳三政権時代に解体された。韓国でも独立記念館などには日本の植民地時代に関する展示があるが、日本の植民地政策や残虐行為を徹底的に糾弾する姿勢で一貫している。中には当時使われたとされるいくつもの拷問器具が再現され、拷問を実際に「追体験」できるような展示もある。子どもには当時の日本ではなく、日本人そのものに対する恐怖心・敵愾心が植え付けられるのではないかと思う。
台湾総統府では「反日」をあおる展示はなく、植民地時代の日本の政策にも詳しく触れ、かつ客観的に紹介されていた。台湾と韓国の対日観の違いを改めて思い知らされた。
中国の清朝時代などに集められた貴重な美術品が大量に展示されている故宮博物院の成り立ちは興味深い。収蔵美術品は国共内戦で本土を追われた蒋介石率いる国民党政府が運んできたものだ。中国の権力者は歴代、過去の中華文明を象徴する文物を所有することで政権の「正統性」を示してきた。生死が懸かった内戦の最中に苦労して美術品を船で運んだのは、蒋介石政権の「正統性」を見せつけるために必要だったのだという。
どこの観光地へ行っても目立ったのが中国本土からの団体観光客で、故宮博物院でも大型バスがひっきりなしに到着していた。ヒスイを白菜の形に彫刻した「翠玉白菜」と豚の角煮そっくりの彫刻「肉形石」が人気の展示だが、長い列で混雑がひどい上、騒々しいため落ち着いて鑑賞することができなかった。現在本土からの観光の多くは団体旅行だが、個人旅行も一部解禁され、今後さらに拡大していくのは間違いない。
親中路線の馬政権の下で、中台は結びつきをますます強めている。中国依存度がこのまま高まれば、台湾は経済面から否応なしに中国にのみ込まれていくのではないか。我が物顔で振る舞う大勢の中国人観光客を見て、そんなことを思った。 |