“世界唯一の救難飛行艇部隊”海自71空 救難訓練同乗取材
2000キロ飛んで洋上救難も
速度、航続距離いずれも向上 新型US2、実戦力に

濃紺色に塗装された離水時のUS2救難飛行艇03号機。今後、US2は全機が海に溶け込む迷彩のダークブルーとなる
片道2000キロを飛行して波高3メートルの荒海に着水し、洋上の遭難者や船舶患者を収容して帰投することのできる“世界唯一の救難飛行艇部隊”海自71航空隊の救難訓練が3月4日、山口県岩国沖で公開された。同隊は平成19年3月の新型US2部隊配備に伴い、海外での救難活動をも視野に、昨年5月には比マニラ湾で行われた「ARF災害救援実動演習」にも初参加した。国際緊急援助活動などでも活躍が期待される71空の現況を見た。 (薗田嘉寛記者)

US2の操縦室。フライ・バイ・ワイヤー、自動操縦装置などによりUS1Aに比べ大幅に操縦性が向上した

US2後部の救助作業室で救命ボートを組み立てるクルー。揺れる機内で各種救命器材を手際よく準備する(3月4日)

ゴムボートに乗り込み発進を準備する機上救助員。荒れた外洋での遭難者救助だけに、ダイバーとしての高い能力も(3月4日)

漂流する救命浮舟に向け機内から救命索を発射、ロープを引いて救助する機上救助員(3月4日)

岩国基地に帰投後、散水装置で塩分を洗い流すUS2の02号機。海面に離着水する同機にとって洗浄支援は不可欠(3月4日)
「船」から「飛行機」へ
救難飛行艇US2はその名の通り胴体の下半分は船で、海面で転覆しないよう左右主翼下にはフロートが取り付けられており、搭乗口は高い場所にある。
クルーに助けられ梯子を上ってその02号機に乗り込む。機内は前から操縦員室、患者収容室、搭乗員室と続き、最後部が救助作業室となっている。同乗者は担架が置かれた収容室の壁側の仮設座席に着席。この部屋には最大で担架が11床設置できるが、人員輸送仕様に変えると30人を収容できる。さらに貨物輸送仕様にすれば収容室に2トン、救助作業室に1トンが搭載可能という。
左右の窓からクルーが外にいる支援要員と手で安全を確認すると、機体はゆっくりと動き出し、機首部を前に傾けてスベリを下り始め、いつの間にか地面は波間に変わっている。エンジンの風圧で波しぶきが上がる。やがて沖に出ると機体は左右にローリングを始めた。揺れ具合はやはり船だ。
「US2は50トンありますが、船にすれば小型の漁船程度。外海ではものすごく揺れます」と飛行隊長の立石和孝2佐(47)。「機内には中央に区画があります。後ろが破れた場合、浸水を防ぐためです」。
やがて沖に出た機は、左側を並んで走る支援船「YR02号」の安全確認を受け、離水態勢に入る。支援船は離水の目印となるブイを海面に設置するとともに、危険な浮遊物を除去したり漁船などを見張る。消防機能も有し、離着水時に万一、火災が発生した場合は直ちに消火に当たる。
「まもなく離水します」とクルー。機内ライトが消され、「身体をしっかり支えて。けっこう揺れますので」と乗員。4発のエンジン音が高まり、機内が震え始めた次の瞬間、機首部が急に持ち上がって滑走を開始。急激な加速に足を踏ん張って外をのぞくと、窓の外は白い波しぶきで何も見えない。だが、やがて窓についた水滴が吹き飛ばされると、もう海面はずっと下にあった。あっという間の離水だったが、速度は120キロほど。スポーツカーより遅い。
荒れた海が仕事場
「安全ベルトを外してもいいですよ」。クルーの指示で機内を見て回る。コクピットでパイロット2人はフルカラーの大型液晶画面を見ながら操縦、その後ろの機上整備員はエンジンの状態を監視。搭乗員室では大型コンソールを前に機上電子員がレーダーを、救難航空士は進出海面の状況などを確認。いよいよ救難現場に着水だ。
着水時の速度は100キロ以下。パイロットは海面に目を凝らし、もし流木など漂流物を見つけた場合、直ちに手動で機を再浮上させ、危険を回避しなければならない。安全の確保された地上滑走路との大きな違いだ。「外洋ではうねりや高波もあり、どの角度から進入すれば一番安全か上空から見極めなければならず、それが難しい」と副操縦士の丹野史大2尉(28)。
「まもなく着水します」。海面が迫ってきて一度ドシンと衝撃の直後に、いったん跳ね上がった感じがしてすぐに着水した。あとはモーターボートのように海面を走り、あっという間に減速。停止するとぷかぷかと浮かぶ「船」に戻る。
そのままでは風や潮流に流されるので、操縦士は四つのプロペラ出力を操作して機体を保持しながら救難場所に向かう。この間、後部の救助作業室ではゴムボートをふくらませる作業が始まっていた。ボートは長さ3・7メートル、幅1・6メートル。用意ができたところで左舷ハッチが開かれると、外には波間が広がり、エンジンの風圧で激しくしぶきが飛んでいる。ボートが吹き飛ばされないようクルーが索で保持し、ダイバー資格を持つ機上救助員2人が乗り込んで船外機を取り付け、遭難者の救助へ。
この日は救命浮舟で漂流中の遭難者の救助法と、海面に浮いている遭難者の救助法とが展示された。対浮舟の場合は、機内から手持ち式の救命索発射機から約100メートル先のボートまで救命索が飛ばされ、それが浮舟に結ばれた後、クルーが索を引っ張って遭難者を機内に収容。海面に漂流する遭難者の場合は、機体で接近した後、機上救助員が海に飛び込んで救助に向かい、浮輪で遭難者の安全を確保した後、機内に収容する。「今日は静かな海面だったが、本番は荒れた海が仕事の場」と説明するのはベテランの上薗寿伸曹長(49)。
機内では救命処置も
救難作業を終えボートを収容すると、機は離水態勢に。遭難者は衰弱し、けがをしている可能性も高いため、復路は救命処置を行いながらの飛行だ。「US2は与圧があり、患者への負担も減った」と機上救護員の南郷裕宣准尉(49)。「US1Aで硫黄島から羽田までお年寄りを空輸したことがあったが、小笠原・母島から硫黄島へのヘリ空輸の間に心臓が悪化した。それで羽田までの飛行中、甦生処置を続け、命を助けることができたことは忘れられない」という。
71空は昭和51年7月の部隊発足から今日まで計848件(災害派遣776件)に出動し、救助人員は829人(同774人)に上る。その中には妊婦やけがをした漁船員、米空軍パイロットなど多種多様な人が含まれ、隊員たちは数々の人生ドラマとも向き合ってきた。
「救助した後、本人や家族からお礼の手紙が届くと、この仕事をしていて本当に良かったと思う」と機上電子員の吉田誠2曹(40)。それは71空全隊員の思いのようだ。
「すごい飛行機」アジア各国驚く
第71航空隊(隊員約200人)には現在、US1AとUS2が各4機配備されている。US1Aはまもなく1機が退役して7機体制となり、今後は速度、航続距離など飛行性能が大幅にアップした新型US2が主力となっていくため、任務の拡大が期待されている。
昨年5月、US2の02号機は岩国からフィリピンのクラーク国際空港まで長駆飛行して“世界デビュー”を果たした。同機はARF(ASEAN地域フォーラム)関係者が見守る中、マニラ湾で救難活動を展示。各国の反応は大きく、この日、機長を務めた正司吉英3佐(38)によると、「初めて救難飛行艇を見た。日本にはなんてすごい飛行機があるんだ!」と絶賛されたという。
派遣中は比国防大臣、EU大使、中国陸軍大学幹部らVIPが機内を視察、さらに演習に参加した各国軍人も多数見学に訪れた。
US2はアジア・太平洋の島々などで大災害が発生した時、飛行場が使えない場所でも迅速に救援活動に従事できることから、活躍の場は大きく広がりそうだ。長期派遣の場合は機体を洗浄する消防車などの支援も必要となるが、緊急の被災者救助、救援物資輸送など短期任務ならすぐにも可能だ。
現在、メーカーの新明和工業は政府の了解を受け、US2を救難機や消防飛行艇として各国に売り込み中。高価なため受注はまだないが、米や豪州など山林火災に悩む国では消防飛行艇に大きな関心を示しているという。